腹腔鏡手術による、女性の尿失禁に対する治療

レビューの論点

女性の尿失禁(尿が漏れること)に対して、腹腔鏡を使った手術(腹腔鏡下仙骨腟固定術)が他の手術に比べて優れているかどうかを調べた。また、腹腔鏡下仙骨腟固定術の異なる手法も相互に比較した。

背景

尿失禁は、多くの女性にとって、よくある厄介な問題である。生殖可能年齢の女性の約1/3が、運動したり、咳・笑い・くしゃみなどをしたりすることで尿が漏れてしまうと言われている。手術以外の治療を受けても尿失禁が続く場合は、手術を勧められることが多い。腹腔鏡下仙骨腟固定術は、腹部の小さな切開部から膀胱頸部周辺の組織を支持するために行われる手術である。

レビューの更新状況

エビデンスは2019年5月22日までのものである。

研究の特徴

尿失禁を抱える女性2271人を対象にした、腹腔鏡下仙骨腟固定術と他の手術を比較した試験、または腹腔鏡下手術の異なる手法を比較した試験が26件見つかった。すべての試験は、少なくとも術後18カ月間は女性を追跡調査し、中には5年程度継続した試験もあった。私たちは、各試験の方法の頑健性と対象とした女性の数を見て、提示されたエビデンスの質を判断した。

主な結果

質の高いエビデンスによると、腹腔鏡下仙骨腟固定術(腹腔鏡下で縫合を行う手術)が、短期的(術後18ヶ月まで)な尿失禁の治療に対して、開腹による腟固定術(従来の手術)と同等の効果がある。しかし、腹腔鏡下手術と開腹手術のどちらが手術中や手術後の合併症のリスクが少ないかについては定かではない。

中部尿道スリング術(膀胱頸部周囲に尿道をハンモックのように支える素材を通す手術)は、短期的な尿失禁の治療および手術による合併症回避について、腹腔鏡下仙骨腟固定術と同等の効果があるかもしれない。中部尿道スリング術は、腹腔鏡下仙骨腟固定術よりも再手術の必要性が低いかもしれない。エビデンスの質が低かったため、これらの結果については確信が持てない。

腹腔鏡下仙骨腟固定術において、尿失禁に対する短期的な治療効果は2本の縫合糸で行う方が1本の縫合糸で行うよりも優れており、また、排尿障害のリスクや再手術の必要性を減らせるかもしれない。一方、手術の合併症に関しては、2本の縫合糸で行う場合も1本の縫合糸で行う場合もほとんど差がないと考えられる。これらの結果も、エビデンスの質が低かったため、確信は持てない。

尿失禁の治療において、メッシュとステープルを使用した腹腔鏡下仙骨腟固定術は、開腹による腟固定術や縫合糸を使用した腹腔鏡下仙骨腟固定術よりも優れているかどうかは、非常に不確かである。また、腹腔鏡下仙骨腟固定術でメッシュとステープルを使用した場合と縫合糸を使用した場合のどちらが再手術が少ないかどうかも非常に不確かである。エビデンスの質が非常に低かったため、結果について非常に不確かであった。

腹腔鏡下仙骨腟固定術のQOL(生活の質)への影響に関するエビデンスは結論が出ておらず、一般化することはできなかった。

エビデンスの質

全般的に、エビデンスの質は低かった。つまり、試験に参加した女性の数が少ないこと、バイアスのリスクがあること、統計的な結果が試験によって異なることなどから、尿失禁の他の治療法と比較した腹腔鏡下手術の総合的な有効性については確信が持てない。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、阪野正大 翻訳[2021.10.21]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD002239.pub4》

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