統合失調症に対する多価不飽和脂肪酸補充

統合失調症は重篤な精神衛生上の問題であり、あらゆる母集団で約1%が罹患している。この疾患と終生つきあっていかなければならない人もいる。初期の研究では、食事にオメガ3やオメガ6脂肪酸を補充すると、統合失調症の症状に良好な効果をもたらす可能性が示唆されている。本レビューでは、オメガ3またはオメガ6を抗精神病薬と併用した、もしくは単独で統合失調症の治療に用いたランダム化比較試験を探した。統合失調症または統合失調感情障害(統合失調症と気分障害の症状を併発)と診断された計517例を対象とした8件の研究を見出した。研究期間は6~16週間で、病院や地域の医療機関で実施された。

大多数の試験では、抗精神病薬で安定している統合失調症の人を対象に、2種類のオメガ3脂肪酸であるEPA(通常はE-EPA)とDHAをプラセボと比較していた。これらの試験では、全般的な機能や精神状態にある程度の改善を示すものもあるが、統計学的に有意ではない。最長の試験では、研究の終了時点で2群間に差はなかった。E-EPAとDHAを比較した1件の試験では、E-EPAはDHAよりも有効であることを示唆しているが、これも統計学的に有意ではなかった。統合失調症(30例)の一次治療としてEPAとプラセボを比較したところ、EPA群では全般的なアウトカムが向上し精神状態が改善した。しかし、これは少数例を対象とした短期試験であった。最後に、1件の試験では、運動障害である遅発性ジスキネジアの男性16例を対象に1種類のオメガ6とプラセボを比較した。6週間の終了時に、いずれの群においても運動に関する有害な症状の緩和はみられなかった。

これらの試験はいずれも小規模な短期試験であった。また、報告されたデータの大半は使用できず、半数の試験では試験治療を提供する団体の資金援助を受けていた。したがって、オメガ3やオメガ6の製剤を服用することが、統合失調症の人の全般的な機能や精神状態を改善するのかについては、まだ明らかになっていない。

(本レビューの平易な要約はJaney Antoniou(RETHINK、英国 www.rethink.org)が作成した。)

著者の結論: 

本レビューは3回の更新で、より多くの人々をランダム化の対象としたより多くの研究を選択したが、追加された有用なデータは比較的少ない。これらの結果は、まだ結論に達していない。新規の試験はすべて、オメガ3多価不飽和脂肪酸を比較するもので、特にエイコサペンタエン酸とそのエステルであるエイコサペンタエン酸エチルについてである。統合失調症に対するオメガ3多価不飽和脂肪酸の利用は、まだ実験段階であり、本レビューでは適切なデザインの大規模研究を実施する必要性を強調しておく。

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背景: 

限定的なエビデンスでは、統合失調症の症状は神経細胞膜の構造変化と代謝による可能性を示唆する仮説が示されている。神経細胞膜の構造と代謝は、ある必須脂肪酸とその代謝物の血漿濃度に依存する。

目的: 

統合失調症の人に対する多価不飽和脂肪酸の効果を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Schizophrenia Group's Registerの検索を1998年、2002年、2005年に続き再度行い、2008年11月にはCINAHL、EMBASE、MEDLINE、およびPsycINFOを定期的に検索した。

必要に応じて、著者や関連性のある製薬会社に連絡し、その後追加された情報について問い合わせた。

選択基準: 

統合失調症に対する多価不飽和脂肪酸による治療について、あらゆるランダム化比較試験を選択した。

データ収集と分析: 

作業はそれぞれ行い、研究を選択して質を評価し、関連性のあるデータを抽出した。ITT解析を実施した。可能かつ適切な場合、相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出し、治療必要数(NNT)を推定した。連続的なデータについては、重み付け平均差(WMD)と95% 信頼区間を算出した。データの異質性も調べた。

主な結果: 

本レビューでは現在、8件の研究を選択している。オメガ3(E-EPAまたはEPA)とプラセボを比較した小規模短期試験では、オメガ3群で神経遮断剤の必要性が低下するとみられ(n=30、1件のRCT、RR 0.73 CI 0.54 ~ 1.00)、精神状態が改善する可能性があることを示唆している(n=30、1件のRCT、PANSSスコアが25%の変化に達しないRR 0.54 CI 0.30 ~ 0.96、NNT 3 CI 2 ~ 29)。研究から早期に脱落した人数に差はない(n=595、6件のRCT、RR 0.86 CI 0.50 ~ 1.48)。オメガ6(GLA)とプラセボを比較したデータはわずかである。運動障害アウトカムについて、1件の小規模研究では、短期エンドポイントであるAIMSスコアの平均に差がないことがわかった(n=16、1件のRCT、WMD 1.30 CI -1.96 ~ 4.56)。E-EPAまたはEPA(オメガ3)とDHA(オメガ3)を比較した場合、PANSSスコアの変化が25%に達しない精神状態アウトカムに、有意差はみられない(n=31、1件のRCT、RR 0.66 CI 0.39 ~ 1.11)。異なる用量のオメガ3(E-EPA)とプラセボを比較した場合、全般的な状態や精神状態の測定値に研究間で差はみられない。1つ以上の有害作用に関するアウトカムについて、用量群間で差はみられない(1 g/日のE-EPAとプラセボの比較: n=63、1件のRCT、RR 0.97 CI 0.60 ~ 1.56。2 g/日のE-EPAとプラセボの比較:n=63、1件のRCT、RR 0.67 CI 0.37 ~ 1.20。4 g/日のE-EPAとプラセボの比較:n=58、1件のRCT、RR 1.15 CI 0.72 ~ 1.82)。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.21]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
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