認知症に対する回想法

レビューの論点

回想法(reminiscence therapy, RT)が認知症の人々に対してどんな効果があるか調べた。とりわけ、生活の質、コミュニケーション、認知機能(考えたり覚えたりする一般能力)、気分、日常生活、人間関係について検討した。また、介護者への影響についても検討した。

背景

回想法(RT)には過去の出来事や経験についての話し合うことが含まれる。回想法は記憶を喚起し、精神活動を刺激し健康を改善することを目的とする。回想にはしばしばビデオ、写真、物体などの小道具が助けとなる。集団または個人のどちらでも行うことが可能であり、しばしば結果として人生の物語を作成する。回想法はうつ病の高齢者に役立つ。回想法は認知症の患者にも適しているかもしれない。なぜなら抑うつは認知症にもよく見られる症状であり、認知症の患者は通常最近の出来事よりも遠い過去の記憶に優れているからだ。

方法

回想法と、無治療または一般的おしゃべりのような非特異的活動とを比較した、ランダム化比較試験を検索した。2017年4月までのすべての試験を対象とした。

結果

本レビューでは、参加者1972例を対象とした22件の試験を対象とした。すべての参加者は認知症を患っており、ほとんどが軽度から中等度であった。参加者は在宅または介護施設入所であった。試験の期間は4週間から2年間、療法に要した時間の合計は3時間から39時間と様々であった。全体的に、ほとんどの試験がよく実施されていると考えられた。

全ての試験を合わせると、参加者から報告された生活の質について回想法は効果が無かったようである。一方、介護施設で行われた研究では、わずかな有益性があった可能性がある。これは在宅で行われたものにはみられなかった。

回想法を行った例は、療法の直後に行われた認知機能テストで対照群よりもわずかに良い成績であったが、数週間から数か月後には差が見られなかった。重要であると言えるほど効果が大きいかは明らかでない。効果は介護施設で個人に行われた回想法の試験では明らかだったが、在宅でグループに行われた回想法の試験では明らかでなかった。

在宅でのグループ回想法および個人的回想法は、効果は小さいものの、コミュニケーションおよび相互関係について良い影響を及ぼす可能性がある。この効果は治療終了直後に認められ、また、数週間から数か月にわたる可能性がある。

個人における回想法の抑うつ気分スケールに対するわずかな効果の可能性を別にすると、回想法について、興奮、日常の活動を行う力、他者との関係性といった他の効果のエビデンスは認められなかった。回想法の、認知症患者自身に対する有害事象のエビデンスは認められなかった。

介護者である家族に対しては、合同回想法についての2件の大きな研究においてわずかに不安が増強された以外には、回想法の効果は認められなかった。この種の回想法では、介護者と認知症患者はいずれも回想法のセッションに直接参加していた。

結論

このレビューの最終版以降、認知症に対する回想法の研究は量、質ともに相当の増加が見られた。回想法の効果は行う方法や行う場所(介護施設または地域)により異なると結論づけた。一方で回想法は、効果は小さいものの、状況により認知症患者の生活の質、認知機能、コミュニケーション、気分を改善できるというエビデンスがある。これらの違いを理解し、どんな種類の回想法がどのような人々に最も有益かを知るにはより多くの研究が必要である。

訳注: 

《実施組織》内藤未帆 翻訳、渡辺 範雄 監訳[2018.6.25] 《注意》 この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる  翻訳のチェックを受けて公開していますが、  訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、  コクランジャパンまでご連絡ください。  なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーの  New review、Updated reviewとも日単位で更新されています。  最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、  タイム・ラグが生じている場合もあります。  ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD001120》

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