安定した慢性閉塞性肺疾患に対する栄養補充

慢性閉塞性肺疾患患者(COPD)は、一般的に低体重である。 低体重は心臓や肺の機能を弱め、運動能力を低下させる場合がある。COPD患者ではある程度の栄養不良が一般的であるが、それが原因で病気が悪化するのか、ただ病気が進行しただけであるのか定かではない。このレビューでは、2週間超にわたってCOPD患者に栄養補充をした17件の研究(632例)を扱っており、栄養補充が体重、呼吸筋力、ウォーキング、QOLを改善したというエビデンスが増えつつあることがわかった。

著者の結論: 

特に栄養不良のCOPD患者で、栄養補充が有意な体重増加を促進するという中程度の質のエビデンスを認めた。栄養状態の良好な患者は、栄養補充の患者と同程度の反応を示さない場合がある。除脂肪量指数/除脂肪量、脂肪量/脂肪量指数、MAMC(除脂肪体重の測定用)、6分間ウォーキング検査、皮下脂肪厚(脂肪量、エンドスコアの測定用)の有意な改善において、全患者でベースラインからの有意な変化も認めた。さらに栄養不良のCOPD患者で、呼吸筋力(MIPおよび MEP)やSGRQにより測定された総HRQoLに有意な改善があった。

これらの結果は前のレビューとは違うので、栄養不良のCOPD患者の管理に関しては考慮しなければならない。

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背景: 

慢性閉塞性肺疾患(COPD)で低体重の患者は、肺が十分に機能を果たさない状態で、横隔膜の筋肉量が減少し、運動能力が低下して、栄養状態が十分である患者より死亡率が高い。これらの患者の総合的ケアには栄養補充が有効である可能性がある。

目的: 

COPDの身体測定値、肺機能、呼吸および末梢筋肉の強度、持久力、機能的運動能力、健康関連QOL(HRQoL)に対する栄養補充の効果を評価すること。

有益性が認められた場合、最も利益が得られる治療レジメンおよび部分母集団を同定するためにサブグループ解析を行うこと。

検索戦略: 

専門家の国際会議や協議会で発表された抄録をハンドサーチしたCochrane Airways Review Group Trials Registerからランダム化比較試験(RCT)を同定した。検索は2012年4月現在のものとした。

選択基準: 

2名のレビュー著者が独立して試験を選択し、バイアスのリスクを評価し、データを抽出した。合意により決定がなされた。

データ収集と分析: 

全アウトカムのデータや主要アウトカムに対するベースラインスコアの変化を統合する時、治療後の値を使用した。同じ測定ツールでアウトカムを評価している研究は平均差(MD)を使用してデータを統合し、アウトカムが類似していても測定ツールが異なる場合は標準化平均差(SMD)を使用した。欠測データに対しては、その研究を実施した著者に連絡をとった。

データを統合する前に臨床的な均質性を確認した。本文および「知見のまとめ」の表で、今回の結果を95%信頼区間(CI)とともに示した。

主な結果: 

2週間以上の栄養補充を実施した17の研究(632例)を選択した。栄養補充を受けた人と受けなかった人の最終体重において有意差がなかったという中等度の質のエビデンス(14 RCT、 512例、栄養補充および栄養不良)が得られた(MD 0.69 kg; 95%CI -0.86〜2.24)。11件のRCT(325例の栄養不良患者)の統合データに、栄養補充による統計学的に有意な体重増加がみられたが(MD 1.65 kg; 95%CI 0.14〜3.16)、3件のRCT(116例の混合患者)では有意な群間差はみられなかった(MD -1.28 kg; 95%CI -6.27〜3.72)。しかし、ベースラインからの変化として解析した場合、栄養補充に有意な改善がみられた:14 件のRCT (5件はSEを補完データとして代用)、 MD 1.62 kg(95%CI 1.27〜 1.96); 11件の RCT (栄養不良患者)、 MD 1.73 kg (95%CI 1.29 〜2.17)および3 件のRCT (混合)、MD 1.44 kg (95%CI 0.68 〜2.19)。

栄養不良の患者と比較し、除脂肪量/除脂肪量指数(SMD 0.57; 95%CI 0.04〜1.09)のベースラインからの有意な改善を支持する5件のRCT(6比較群、287例)に質の低いエビデンスがあった(3 RCT、125例; SMD 1.08; 95% CI 0.70〜1.47)。栄養状態が十分良好である患者(1 RCT、71例; SMD 0.27; 95%CI -0.20〜0.73)や混合患者(2 RCT、91例; SMD -0.05; 95%CI -0.76 ~ 0.65)ではベースラインからの有意な変化はなかった。

栄養補充によって脂肪量/脂肪量指数がベースラインから有意に改善したという中等度の質のエビデンスが2件の試験(91例の混合患者)から得られた(SMD 0.90; 95%CI 0.46〜1.33)。

上腕筋囲の増加を示す質の低いエビデンス(8 RCT、294例)があった(MAMC; MD 0.29; 95%CI 0.02~ 0.57)。

三頭筋測定はベースラインからの変化に有意差がなかったことを示す質の低いエビデンス(6 RCT、125例)があった(MD 0.54; 95%CI -0.16〜1.24)。

6分間ウォーキング(MD 14.05 m; 95%CI -24.75 〜52.84)、12分間ウォーキング、往復ウォーキング間では有意な群間差がなかったという質の低いエビデンス(5 RCT、142例)があった。しかし、6分間ウォーキングでは、ベースラインからの変化を統合したものは有意であった(MD 39.96 m; 95%CI 22.66 〜57.26)。

リットルまたは予測パーセントで測定された場合、1秒間の努力呼気肺活量(FEV 1 ; SMD -0.01; 95%CI -0.31〜0.30)に有意な群間差はなかったという質の低いエビデンス(7 RCT、228例)があった。

最大呼気圧(MIP; MD 3.54 cm H 2 O; 95%CI -0.90〜7.99)に群間差はないとする質の低いエビデンス(9 RCT、245例)があったが、栄養補充を受けた患者では最大呼気圧(MEP; MD 9.55 cm H 2 O; 95%CI 2.43〜16.68)が高かった。栄養不良の患者に対して(7 RCT、189例)、栄養補充の患者ではMIP(MD 5.02; 95%CI 0.29〜9.76)およびMEP(MD 12.73; 95%CI 4.91〜20.55)が有意に良好であった。

St George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)およびChronic Respiratory Questionnaire(CRQ)の結果を統合した場合、HRQoLの総スコア(SMD -0.36; 95%CI -0.77〜0.06)には有意差がないという質の低いエビデンス(4 RCT、130例)があった。

2件の試験(67例)では、活動、影響、症状の各ドメインを測定するためにSGRQを使用していた。プールした総SGRQスコアは、治療最終時点で統計学的に有意で臨床的に意味のあるものであった(MD -6.55; 95%CI -11.7〜-1.41)。各ドメイン(呼吸困難、倦怠感、情緒、自己コントロール感)の変化の測定にCRQを使った3件のRCT(123例)では、有意な群間差はみられなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.24] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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