原因不明の反復流産に対する中薬(中医学の薬草療法)

反復流産は、妊娠初期に2回、3回、またはそれ以上連続する自然発生流産と定義され、妊娠可能な年齢の女性の少数(1%から3%)に発生する。多くの女性は、妊娠10週以降に子宮からの出血や下腹部痛を経験するまで流産に気づかない。初回妊娠喪失後は反復流産のリスクがあり、妊娠が成功する確率は異なる。一部の反復流産は、母親側と胎児側の両方に背景となる原因があり、それらに特化した治療が有効である。しかし、背景となる原因が特定されない場合もあり、反復流産の大多数は原因不明である。原因不明の反復流産の治療に対する国際的な推奨はない。中薬(中医学の薬草療法)は何世紀もの間アジア諸国で広く用いられ、近年、西洋諸国でも代替療法として人気が高くなっている。多数の臨床試験において、中薬が流産を予防し、妊娠継続を促進することで、妊娠および生児出生率を改善することが報告されている。

これらの試験では異なる中薬(Shou Tai Pill, Yangxi Zaitai Decoction, Bushen Antai Decoctionおよびいくつかの改変処方)が使用されている。基本の処方には、ほとんどの場合、一般的な中薬(Chinese Dodder Seed、Chinese Taxillus Twig、Himalayan Teasel Root、Largehead Atractylodes Rhizome、Donkey-hide Glue、Eucommia Bark、Tangerine Peel、Szechwon Tangshen Root、White Paeony Root、Baical Skullcap Root、Mongolian Milkvetch Root、Chinese Angelicaなど) が含まれていた。西洋薬には、サルブタモールや硫酸マグネシウムなどの子宮収縮抑制薬、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、プロゲステロンまたはジドゲステロンによるホルモン補充、ビタミンE、ビタミンK、葉酸などの補助サプリメントなどが含まれていた。

2015年6月1日にエビデンスを検索し、介入効果を評価するため、9件の試験(参加女性861名)を同定した。いずれの試験も方法の質が低く、全体的なバイアスのリスクが不明だった。対照介入にプラセボ、無治療または床上安静を用いた試験はなかった。1件の試験では心理療法と中薬の有効性を比較した。

中薬を他の薬剤と併用した場合、他の薬剤を単独で使用した場合と比べて、20週以降の妊娠継続率(92.1% vs 72.0%、2件の試験、参加女性189名)および生児出生率(79.7% vs 44.2%、6件の試験、参加女性601名)が高かった。中薬単独を他の薬剤単独と比較した場合、生児出生率に差は認められなかった(1件の試験、参加女性80名)。この試験では妊娠継続率の比較はできなかった。心理療法単独の群と比較した場合、中薬と心理療法を併用した群の方が生児出生率が高かった(91.1% vs 68.9%)。

大多数の試験では、母親および胎児の有害作用の情報が報告されていなかった。2件の試験(参加女性341名)でのみ、母親に対する有害作用が認められなかったことが報告されていた(1件は(複数の)中薬を他の薬剤と比較した試験で、別の1件は中薬単独を他の薬剤単独と比較した試験)。1件の試験(中薬単独と他の薬剤単独を比較)のみが、産前および産後に胎児異常が認められなかったことを報告していた。

試験の限界について記述した試験報告はなかった。どの中薬またはどの中薬の組み合わせが有効であるかは不明である。

中医学の診断や分類は独特であるため、反復流産の亜型によっては処方が異なる場合がある。大多数の漢方医は、患者の臨床徴候に応じて伝統的な処方を改変する。一部の中薬は反復流産の治療に対する伝統的な処方を改変したものであった。したがって、有効性に関する本研究の結論は、一般的な反復流産に対する中薬の総合的な効果を示すにとどまる。総合すると、中薬と他の薬剤の併用は他の薬剤単独の場合と比較して原因不明の反復流産に対する有益性が高いと考えられるが、中薬単独で治療した場合の有効性および安全性に関するエビデンスは不明である。

この介入について、母親および胎児に対する安全性および毒性を評価したデータが得られなかった。また、母親および胎児に関する他のすべてのアウトカムに関するデータも得られなかった。原因不明の反復流産に対する中薬の有用性を完全に評価するためには、さらに質の高い研究が必要である。

著者の結論: 

原因不明の反復流産の治療における中薬の有効性を評価するにはエビデンスが限られていた(サンプルサイズが小さくバイアスのリスクが不明な9件の試験)。母親および胎児に対する介入の安全性を評価するデータが入手できなかった。本レビューの副次アウトカムに関するデータはなかった。入手した限られたデータによると、中薬と他の薬剤(主に西洋薬)の併用は西洋薬単独と比較して妊娠継続率および生児出生率に対する効果が高かった。しかし、対象試験の方法の質は概して低かった。

関連試験が同定されなかったため、中薬単独をプラセボまたは無治療(床上安静を含む)と比較することはできなかった。

原因不明の反復流産に対する中薬の有効性および安全性をさらに詳しく評価するためには、より質の高い研究が必要である。妊娠率および生児出生率に対する中薬の効果を評価するのに加えて、今後の研究では安全性の問題(母親および胎児にの有害作用および毒性)や本レビューに示した副次アウトカムについても検討すべきである。対象試験が、適格なプラセボ対照試験の不足、適切なランダム化法の適用、バイアスの回避など試験デザインの問題を克服していれば、本レビューはさらに価値のある情報を提供することができただろう。

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背景: 

反復流産は妊娠可能年齢の女性の1%から3%に発生し、大多数が妊娠10週より前に認められる(その後の流産も同様の妊娠週で発生)。流産後の妊娠で再度流産する確率はさまざまである。一部の例では、背景となる原因(母親または胎児に関係)が存在し、この原因を標的にした特定の治療が有効な場合がある。しかし、大部分の例では背景となる原因は特定されず、反復流産の原因は不明である。

現時点では、国際的に承認された原因不明の反復流産に対する治療法はない。中薬(中医学の薬草療法)はアジア諸国で何千年もの間広く用いられ、近年は西洋医学の代替法として人気が高くなっている。本システマティックレビューでは反復流産に対する中薬の有効性を評価した。

目的: 

原因不明の反復流産に対する治療として中薬の有効性および安全性を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Pregnancy and Childbirth Group's Trials Register (2015年6月1日)、Embase (1980年〜2015年6月1日)、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature (CINAHL) (1982年〜2015年6月1日)、Chinese Biomedical Database (CBM) (1978年〜2015年6月1日)、China Journal Net (CJN) (1915年〜2015年6月1日)、China Journals Full-text Database (1915年〜2015年6月1日)およびWanFang Database (Chinese Ministry of Science & Technology) (1980年〜2015年6月1日)を検索した。関連する試験およびレビューの参考文献も検索した。研究組織、当該分野に従事する個人の専門家および中薬製造会社を同定し、問合せを行った。

選択基準: 

原因不明の反復流産に対する治療として、中薬(単独または他の介入もしくは薬剤と併用)をプラセボ、無治療、他の介入(床上安静および心理的支援を含む)、または他の薬剤と比較した、クラスターランダム化試験を含む、フルテキストありまたはなしのランダム化比較試験または準ランダム化比較試験。クロスオーバー試験は本レビューの対象とはしなかった。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者がそれぞれすべての対象試験を評価し、バイアスのリスクを評価し、データを抽出した。データの正確性を確認した。

主な結果: 

9件のランダム化試験を組み入れた(参加者861名)。これらの試験では、中薬(さまざまな処方)を単独で使用(1件の試験)、または他の薬剤と併用(7件の試験)し、他の薬剤の単独使用と比較した。1試験では、中薬と他の薬剤の併用を心理療法と比較した。中薬をプラセボまたは床上安静を含む無治療と比較した試験は同定されなかった。

各試験で、さまざまな中薬が使用されていた(伝統的な処方を改変して用いた試験もあった)。西洋薬には、サルブタモールや硫酸マグネシウムなどの子宮収縮抑制薬、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、プロゲステロンまたはジドゲステロンによるホルモン補充、ビタミンE、ビタミンK、葉酸などの補助サプリメントなどが含まれた。

総じて、対象試験の方法の質は低く,ほぼすべての「バイアスのリスク」評価において、バイアスのリスクは不明であった。

中薬単独を他の薬剤単独と比較した試験では、2群間で生児出生率に差は認められなかった(リスク比(RR) 1.05; 95%信頼区間(CI) 0.67〜1.65;1件の試験、参加女性80名)。妊娠率(20週以降の妊娠継続)のアウトカムに対するデータは入手できなかった。

対照的に、中薬と他の薬剤を併用した群では、他の薬剤単独の場合と比べて持続妊娠率(RR 1.27 95% CI 1.10〜1.48、2件の試験、参加女性189名)および生児出生率(平均RR 1.55; 95% CI 1.14〜2.10;6件の試験、参加女性601名、Tau² = 0.10; I² = 73%)が高かった。

中薬と心理療法の併用を心理療法単独と比較した試験(1件の試験)では、中薬と心理療法を併用した群の方が心理療法単独の群よりも生児出生率が高かった(RR 1.32; 95% CI 1.07〜1.64;1件の試験、参加女性90名)。この比較に関して、持続妊娠率のデータは入手できなかった。

その他の主要アウトカム(母親の有害作用および毒性発現率および周産期の有害作用および毒性発現率)は大多数の対象試験で報告されていなかった。2件の試験(参加女性341名 )の報告では、母親の有害作用は認められなかった(1件の試験では(複数の)中薬 を他の薬剤と比較、別の1件の試験では中薬単独を他の薬剤単独と比較)。1件の試験(中薬単独を他の薬剤単独と比較)では、胎児異常(超音波検査)または出産後の新生児異常は認められなかった。

本レビューの副次アウトカムに関するデータは報告がなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.21]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
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