過体重または肥満の人に対するピコリン酸クロム補充

レビューの論点

クロミウムのサプリメントは過体重または肥満の成人の減量に有用か。

背景

クロミウムは、炭水化物、蛋白および脂質の正常な代謝(これらの分子を体が吸収するのに適した形に分解する化学反応)に必要な必須栄養素(微量元素)である。クロミウムはインスリンの活性を高める。したがって、クロミウムを補充することによって糖代謝が改善する。これは、糖尿病で過体重の人にとって重要な血糖値の低下につながる可能性がある。クロミウムは、一般に、体内の脂肪の量を減らすことによって減量に効果を発揮するのではないかと考えられている。クロミウムは、ほかにも、食欲を抑制し、体の熱産生を促進させることにより、エネルギーの消費量を増加させると考えられている。これが減量に寄与する可能性がある。ピコリン酸クロムは、減量に役立つ可能性がある栄養剤として販売されている数種類のクロミウム化合物のひとつである。

研究の特性

過体重または肥満の成人(肥満指数が25~29.9 kg/m2を過体重、肥満指数が30 kg/m2以上を肥満と定義した)を対象に、8~24週間のクロミウム補充の有効性および安全性をプラセボと比較したランダム化比較試験(RCT)9件を採用した。これらの試験には、計622例が参加した。346例がピコリン酸クロムを摂取し、276例にはプラセボが投与された。本エビデンスは2012年12月現在のものである。

主な結果

試験に用いられたピコリン酸クロムの各用量(200 µg、400 µg、500 µg、100 0µg)の結果を統合したところ、プラセボを投与された参加者よりも、体重が1 kg前後減少していた。この潜在的な減量効果が、ピコリン酸クロムの用量が増えるにつれて大きくなることを示す良質のエビデンスは発見されなかった。9件の試験のうち、有害事象に関して報告していたのはわずか3件であったため、ピコリン酸クロムのサプリメントが安全であるかどうか、さらに、増量に伴って有害性が大きくなる可能性があるかどうかを明らかにすることはできなかった。さらに、採用した試験がいくぶん短期間であったため(最大24週間)、長期間の補充による影響を明らかにすることはできなかった。ピコリン酸クロムの補充が、全死因死亡率、罹病率(心筋梗塞や脳卒中)の増加や、健康関連QOLおよび社会経済的効果に関連があるかどうかを報告した試験はなかった。

エビデンスの質

エビデンスの質は全体的に低いと判定した。過体重または肥満の成人に対するピコリン酸クロム補充の有効性および安全性について、結論を導くには情報が不十分である。

著者の結論: 

過体重または肥満の成人を対象としたCrPのサプリメントの有効性および安全性に関して、決定的な答えを導くために必要な信頼できる最新のエビデンスは得られなかった。

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背景: 

肥満は、世界中で公衆衛生を脅かすものとなっている。ピコリン酸クロム(CrP)による減量が医学文献で提唱されており、製剤は、米国や欧州、さらにインターネットで減量薬として販売されている。

目的: 

過体重または肥満の人を対象にCrP補充の有効性を評価すること。

検索戦略: 

コクラン・ライブラリ、MEDLINE、EMBASE、ISI Web of Knowledge、Chinese Biomedical Literature Database、China Journal Fulltext DatabaseおよびChinese Scientific Journals Fulltext Database(データベースはいずれも2012年12月まで)を検索し、さらに他の情報源(進行中の試験、臨床試験登録および参考文献リストのデータベースなど)を検索した。

選択基準: 

過体重または肥満の人を対象に実施されたCrP補充のランダム化比較試験(RCT)とした。小児、妊婦および重篤な疾患のある人を含む試験は除外した。

データ収集と分析: 

2名の著者が、レビューに関連のある論文タイトルおよび抄録を独立して選別した。1名の著者が、採用の選別、データの抽出および「バイアスのリスク」の評価を行い、2番目のレビューアが確認した。バイアスのリスクは、選択、実行、症例減少、検出および報告の各ドメインを調べて評価した。Review Manager 5を用いて、採用した試験のメタアナリシスを実施した。

主な結果: 

計622例が参加したRCT 9件を評価した。これらのRCTは地域ベースで実施され、介入は主に医療専門家によって行われ、追跡期間は短~中期(最大24週間)であった。3件のRCTが、CrPとレジスタンストレーニングやウェイトトレーニングの併用を、プラセボとレジスタンストレーニングやウェイトトレーニングの併用と比較し、残るRCTがCrP単独とプラセボを比較した。このレビューでは、プラセボに比較して最も効果のあるCrPの用量に焦点を当てた。このため、結果はCrPの用量毎に評価した。しかし、CrPが全体として効果的であるかどうかを検討するため、CrPの用量をすべてプールしたものとプラセボを比較して、体重に及ぼす効果に限定した解析も行った。

試験で使用されたCrPのあらゆる用量(200 µg、400 µg、500 µg、1000 µg)で、摂取12~16週間後に、臨床的関連性については不明なものの、CrPの効果が体重に対して認められた:平均差(MD)-1.1 kg(95%CI -1.7~-0.4);P=0.001;参加者392例;6試験;質の低いエビデンス(GRADE)。減量のさまざまな指標(体重、肥満指数、体脂肪組成率、腹囲の変化)に関して、CrPの各用量とプラセボを比較しても確かなエビデンスも用量勾配も認められなかった。

有害事象に関する情報を報告した試験はわずか3件であった(質の低いエビデンス(GRADE))。CrP 1000 µgを摂取した参加者に重篤な有害事象および試験からの脱落症例が2例認められ、400 µgを摂取した参加者1例に重篤な有害事象がみられた。プラセボを投与された参加者2例が有害事象のために中止した。有害事象の1件は重篤であると報告されている。全死因死亡率、罹病率、健康関連QOLおよび社会経済的効果に関して報告した試験はなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.10]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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