統合失調症患者に対するNidotherapy

Nidotherapy(ラテン語の ‘nidus’すなわち‘nest’に由来)は、個人の環境や状況を変化させる必要性を認識し、それを実践することを目的としている。この治療法は、個人の幸福、住宅事情、金銭管理、人間関係、職業およびその他の要因を改善するために他の治療法と併用することで効果が得られる。Nidotherapyの目的は、その人物を変えるのではなく(他の心理療法はしばしば、人物の行動や感情、思考を変化させることを目的としている)、環境とその人物との間により良い「調和」を作り出すことである。その結果、患者に改善が認められる可能性があるが、それは治療の直接的な結果ではなく、より調和のとれた環境との関係が作り出されたためである。Nidotherapyの利益としては人間関係、自己肯定感、服薬、メンタルヘルスの改善などが挙げられ、多くの場合、より良い生活状況を作り出す。環境因子またはその人物の状況が疾病や再発に少しでも関与している場合は、Nidotherapy専門家と統合失調症患者が協力してこれらの因子を特定し、再発の回数を減らし、重症度を軽くするよう試みることができる。

このレビューでは、52人が参加した1件の小規模パイロット試験を対象とした。この研究では、Nidotherapyと標準治療を併用した場合を標準治療単独の場合と18カ月間比較した。研究結果から、Nidotherapyを12カ月間を超えて受けた患者は社会的機能または人間関係、精神状態がわずかに改善し、入院期間が短縮される可能性があることを示唆する限定的なエビデンス(証拠)が得られたが、このエビデンスが個々の患者に該当するかどうかを示唆する情報はない。いずれにせよ、これらの限定的な研究結果の取扱いには非常に注意する必要がある。単一試験のサンプル・サイズが小さく、エビデンスが不完全で、バイアスのリスクが存在するため、Nidotherapyを受けることでどの程度改善される可能性があるのかは依然として不明である。全般的機能、生活の質、服薬、治療に対する満足度、雇用状況および有害作用に対するNidotherapyの効果に関するエビデンスは得られなかった。Nidotherapyの有効性、利益および予期される危険性に関する知識の溝を埋めるためには、さらに研究が必要である。それまでは、メンタルヘルスの問題を抱える人々、医療専門家、マネージャーおよび政策立案者はこの新しい治療法を実験的なものとみなすべきである。

この要約は利用者であるBen Gray氏(Benjamin Gray, Service User and Service User Expert, Rethink Mental Illness Email:ben.gray@rethink.org)によるものである。

著者の結論: 

最近考案された本治療法の潜在的利益または有害性に関する研究がさらに必要である。これらの研究成果が得られるまで、患者、臨床医、マネージャーおよび政策立案者は本法を実験的手法とみなすべきである。

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背景: 

Nidotherapyは、統合失調症患者およびその他の重篤な精神疾患患者の環境を変化させることを主な目的とした治療法で、他の治療法と並行して施行される。本法の目的は、直接的な治療や介入に注目せず、あらゆる種類の精神障害が個人や社会に与える影響を最小限に抑えるため、個々の患者が環境を変化させる必要性を認識し、実践するよう援助することである。

目的: 

統合失調症患者または関連疾患患者を対象に、nidotherapyを標準治療に追加した場合の効果を標準治療または無治療と比較検討すること。

検索戦略: 

Cochrane Schizophrenia Group Trials Register(2011年12月)を検索し、補足として関係研究著者への問い合わせ、nidotherapyに関する文献のハンドサーチおよび参考文献リストのハンドサーチを実施した。

選択基準: 

Nidotherapyを標準治療または無治療と比較したすべてのランダム化比較試験(RCT)。

データ収集と分析: 

組み入れ候補試験を独立して選出し、質を評価した。信頼できる情報源からデータを抽出した。 均一性を有する二分データのリスク比(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。評価尺度のデータは妥当性が認められた評価尺度のみから抽出した。歪みのない連続エンドポイントデータについては、群間平均差(MD)を推定した。歪みのあるデータについては、「その他のデータ」として正当性を評価した平均値および標準偏差とともに「データおよび解析」に示した。対象研究のバイアスのリスクを評価し、GRADEを用いて「知見のまとめ」の表を作成した。

主な結果: 

Nidotherapyと標準治療を併用した場合と標準治療単独の場合を比較した1件の研究(参加者総計52例)のみを組み入れた。本研究は著者によって「パイロット試験」に分類された。対象試験の実施期間は総計18カ月であった。Nidotherapyと標準治療を併用した場合と標準治療単独の場合を比較した単一試験では、短期効果(最大6カ月)および中期効果(6カ月から12カ月)を検証した。

Nidotherapyと標準治療を併用した場合、標準治療単独の場合と比較して、社会的機能に対する短期効果(n = 50, 1 RCT, MD -2.10, 95%CI -4.66〜0.46)および中期効果(n = 37, 1 RCT, MD -1.70, 95%CI -4.60〜1.20、きわめて質が低い)の両方で優れた結果が得られた。しかし、これらの結果に統計学的有意性は認められなかった。入院不要なサービスの利用に関する結果は、介入群の方が短期効果(n = 50, 1 RCT, MD 2.00, 95%CI 0.13〜3.87)および中期効果(n = 37, 1 RCT, MD 1.70, 95%CI- 0.09〜3.49)の両方で優れており、短期効果では統計学的有意性が認められたが、中期効果では有意性は認められなかった。研究から早期離脱した患者の結果は、短期効果に関しては介入群(n = 52, 1 RCT, RR 0.86, 95%CI 0.06〜12.98)の方が優れており、中期効果に関しては対照群の方がわずかに優れていた(n = 50, 1 RCT, RR 0.99, 95%CI 0.39〜2.54)。この場合も、結果に統計学的有意性は認められなかった。有害作用または有害事象の死亡例の結果(12カ月目に評価)は介入群の方が優れていた(n = 52, 1 RCT, RR 0.29, 95%CI 0.01〜6.74、きわめて質が低い)が、統計学的有意性は認められなかった。精神状態、サービスの利用および費用のアウトカムについて歪みのある結果が得られ、nidotherapyの利益について複雑な結果が示された。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.9]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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