急性胆石性膵炎の治療に対する内視鏡検査

急性膵炎とは、重度の腹痛を伴う膵臓の急激な炎症をさす。最も多い原因は、胆石による膵管または胆管(あるいはその両方)の一過性閉塞である。急性膵炎の発作の大半は、軽度でほとんどの患者は医学的管理により問題なく回復する。しかし、一部の患者は集中治療を要する重症の経過をたどる。 内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)は、内視鏡検査とX線検査を組み合わせて胆管および膵管の異常を治療する方法である。患者を鎮静し、内視鏡を食道、胃から胆管と膵管の開口部(膨大部)が位置する十二指腸へ通す。カテーテルを内視鏡に挿入して膨大部から胆管へ通す。造影剤を胆管へ注入し、X線検査を行い胆石または閉塞を探す。胆石を認めた場合、それをバスケットやバルーンで除去することができる。しかし、本処置にはリスクを伴う。出血、消化管壁の穿孔、胆管感染、または膵炎の悪化が合併することがある。 一般に、胆石による膵炎は、2つの治療法で管理される。第一の方法は、絶飲食、静脈内輸液投与、抗菌薬および疼痛緩和薬などの保存的内科的管理の早期使用である。胆管感染や胆石による持続的な胆管閉塞を示唆する徴候や症状がある場合、胆石を除去するためERCPを用いる。しかし、患者の状態が改善した場合、ERCPの必要はない。第二の方法は、すべての患者を対象に、保存的内科的管理に追加して早期(入院72時間以内)にルーチンにERCPを用いるものである。どちらの治療が特に重度の膵炎エピソードに適しているか多数の議論がなされてきた。 本レビューでは、急性胆石性膵炎患者における2つの治療法の効果を比較した。患者総数757名の7件の研究をレビューし最善の入手可能なエビデンスを得た。急性胆石性膵炎患者を対象に発作の重症度にかかわらず、早期保存的管理法に比べて早期ERCPによる死亡および合併症の減少はなかった。しかし、胆管感染または胆管閉塞のある患者では早期ERCPによる利益が得られる可能性がある。ERCP関連合併症の頻度は低かった。

著者の結論: 

急性胆石性膵炎患者では、早期ルーチンERCPが予測重症度にかかわらず、死亡率および膵炎の局所・全身性合併症に有意に影響するというエビデンスは認められなかった。しかし、胆管感染または胆道閉塞症併発患者では早期ERCPが有益な結果を生じ、本法を考慮すべきという現在の勧告が支持された。

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背景: 

急性胆石性膵炎における内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ERCP)の役割および時機はいまだ議論の的となっている。多数の臨床試験とメタアナリシスは、相反するエビデンスを示している。

目的: 

急性胆石性膵炎の非選択的患者を対象に、死亡率、Atlanta Classification (Bradley 1993年)および主要な研究の著者らが定義した局所および全身性合併症、ならびにERCP関連合併症などのすべての重要な臨床的に関連性のある標準化アウトカムに基づいて、早期ルーチンERCPの臨床的有効性および安全性を選択的ERCP使用の有無を問わない早期保存的管理法と比較して評価しているランダム化比較試験(RCT)によるエビデンスについてシステマティックにレビューすること。

検索戦略: 

言語の制約は設けず、Cochrane Upper Gastrointestinal and Pancreatic Diseases modelを用いてCENTRAL (コクラン・ライブラリ)、MEDLINE、EMBASEおよびLILACSデータベースと主要な学会議事録を2012年1月まで検索した。

選択基準: 

急性胆石性膵炎の疑いがある患者を対象に、早期ルーチンERCPを選択的ERCP使用の有無を問わない早期保存的管理法と比較しているRCT。急性胆石性膵炎対象患者が、患者群内で大規模なサブグループとなっている研究も選択した。サブグループ解析では、急性胆石性膵炎(実際に重度の膵炎)患者という選択的サブグループのみを対象としている研究だけを選択した。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが研究の選定、データ抽出および方法論的質の評価を別々に実施した。ランダム効果モデルによるITT解析を用いて、二値データを統合しリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)を得た。カイ二乗検定およびI2統計量を用いて異質性を評価した。異質性の源を探索するため、膵炎の予測重症度、胆管炎、胆道閉塞症、ルーチンERCP法でのERCPまでの時間、保存的管理法での選択的ERCPの使用、およびバイアスリスクによる事前のサブグループ解析を実施した。結果の頑健性を評価するため、異なる要約統計量[RR対オッズ比(OR)]およびメタアナリシスモデル(固定効果対ランダム効果)を用いて感度解析ならびにper-protocol解析を実施した。各研究を除外していき、影響解析を実施した。

主な結果: 

参加者644名からなる5件のRCTを主要解析に組み入れた。実際の重度急性胆石性膵炎患者のみからなる2件のその後追加されたRCTは、サブグループ解析のみに組み入れた。死亡率について試験間で統計学的異質性を認めたが、他のアウトカムについては認めなかった。急性胆石性膵炎の非選択的患者において、死亡率(RR 0.74、95%CI 0.18~3.03)、Atlanta Classificationが定義した局所および全身性合併症(RR 0.86、95%CI 0.52~1.43;RR 0.59、95%CI 0.31~1.11)、主要研究の著者らが定義した局所および全身性合併症(RR 0.80、95%CI 0.51~1.26;RR 0.76、95%CI 0.53~1.09)に2つの方法で統計学的有意差はなかった。Atlanta Classificationが定義した全身性合併症を除いて、結果は感度解析および影響解析に対して有意差を認めなかった。膵炎の予測重症度に結果が依存すると示唆するエビデンスはなかった。胆管炎患者を含む試験では、早期ルーチンERCPにより、死亡率(RR 0.20、95%CI 0.06~0.68)、Atlanta Classificationが定義した局所および全身性合併症(RR 0.45、95%CI 0.20~0.99;RR 0.37、95%CI 0.18~0.78)、主要な研究の著者らが定義した局所および全身性合併症(RR 0.50、95%CI 0.29~0.87;RR 0.41、95%CI 0.21~0.82)が有意に低下した。胆道閉塞症患者を含む試験では、早期ルーチンERCPは、主要な研究の著者らが定義した局所合併症の有意な減少に関連し(RR 0.54、95%CI 0.32~0.91)、Atlanta Classificationが定義した局所および全身性合併症(RR 0.53、95%CI 0.26~1.07;RR 0.56、95%CI 0.30~1.02)ならびに主要な研究の著者らが定義した全身性合併症(RR 0.59、95%CI 0.35~1.01)の有意ではない減少傾向に関連していた。ERCP合併症の頻度は低かった。

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