頭頚部癌の治療を受けた患者における肩(関節)疾患に対する運動介入

頸部郭清術と放射線治療のどちらも肩関節の罹病の原因となりうる。頸部リンパ節への癌の転移を防ぐため「頸部郭清術」がしばしば用いられるが、この手術により「肩症候群」が起こりうる。これは、肩下垂、「翼状肩甲骨」(肩甲骨の異常な突出)、肩をすくめられないこと、動かすことにより悪化する局在のはっきりしない鈍痛と定義される。根治的頸部郭清術を受けた患者の50~100%もの多数に肩の障害がみられる。 手術が肩に及ぼす影響を軽減するため、理学療法的介入が用いられるが、これには幅広いリハビリテーション技法が含まれる。これらには、受動的、能動的、または能動支援的関節可動域訓練[患者の関節を外力(器具や人など)または能動的筋収縮、あるいはその併用により動かす]、漸増抵抗訓練(患者が外力に抵抗して筋肉を動かす)、固有受容性神経筋促通(PNF)運動(筋力、筋持久力、および筋伸長を改善するために用いる方法)などがある。 本レビューでは、患者104名を対象とした3件のランダム化比較試験(RCT)を同定した。2件の研究は漸増抵抗訓練を標準治療(通常の治療手順)と比較していた。それらの結果を統合したところ、漸増抵抗訓練により肩痛、肩甲機能障害、外旋の能動的関節可動域、外転、前方屈曲、外旋、水平外転の各受動的関節可動域が改善したという所見を得た。この改善の程度は小さかった。これらの研究によると生活の質に統計学的に有意な差は認められなかった。2件の重篤でない有害事象が漸増抵抗訓練群で報告されたが、標準治療群での報告はなかった。 別の研究は、任意の能動運動訓練、ストレッチ、姿勢ケア、肩甲胸郭姿勢筋再教育、肩甲筋力強化などさまざまな技法を、術後3ヵ月間のルーチン術後理学療法的ケアと比較していた。その研究では、運動群とルーチンの理学療法ケア群とで肩甲機能と生活の質に差を認めなかった。有害作用の報告はなかった。 頭頸部癌患者を対象に、術後早期および放射線治療後に他の運動介入を適用する、長期間追跡した研究が必要である。

著者の結論: 

2件のRCTからの限られたエビデンスによれば、頭頸部癌患者での肩(関節)疾患に対しPRTは標準的理学療法より有効性が高く、肩関節の疼痛、機能障害、および関節可動域を改善したが生活の質は改善しなかった。しかし、統計学的に有意であったものの、測定された介入の利益は小さかった。他の運動レジメンはルーチンの術後理学療法に比べて有効性が高いと言えなかった。頭頸部癌患者を対象に、術後早期および放射線治療期間早期に他の運動介入を適用する、長期間追跡した研究が必要である。

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背景: 

肩(関節)疾患は頭頸部癌の治療を受けた患者に多くみられる疾患の一つである。頸部郭清術と放射線治療のどちらも肩関節の罹病の原因となりうる。この集団に対する治療選択肢として運動介入が提案されている。

目的: 

頭頸部癌の治療により起こった肩(関節)疾患の治療として運動介入の有効性および安全性を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane ENT Group Trials Register、CENTRAL、PubMed、EMBASE、CINAHL、Web of Science、BIOSIS Previews、Cambridge Scientific Abstracts、ISRCTN、発表および未発表の試験についてその後追加された文献を検索した。検索日は2011年7月7日であった。

選択基準: 

頭頸部癌の治療による肩(関節)疾患を対象にあらゆる種類の運動療法を他の介入法と比較したランダム化比較試験(RCT)。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが別々に試験を選択し、バイアスリスクを評価して研究からデータを抽出した。発表論文で提示されていない情報について原著者に連絡を取った。

主な結果: 

104名を対象とする3件の試験を選択した。1件の研究でバイアスのリスクが低いと分類した。他の研究はいくつかの欠点があり、それらのバイアスのリスクは高いと分類した。 2件の研究(片方はバイアスのリスクが低く、もう片方はバイアスのリスクが高かった)は漸増抵抗訓練(PRT)、関節可動域訓練、ストレッチを組み合わせ、比較群は標準治療を受けていた。プールしたデータによると、PRTにより、Shoulder Pain and Disability Index (SPADI)(範囲0~100)を用いて測定した肩痛[平均差(MD)-6.26、95%信頼区間(CI)-12.20~-0.31]および肩(関節)機能障害(MD -8.48、95%CI -15.07~-1.88)が改善した。同様に、以下の副次アウトカムも改善した。外旋の能動的関節可動域(MD 14.51度、95%CI 7.87~21.14)、それに受動的関節可動域は外転(MD 7.65度、95%CI 0.64~14.66)、前屈(MD 6.20度、95%CI 0.69~11.71)、外旋(MD 7.17度、95%CI 2.20~12.14)および水平外転(MD 7.34度、95%CI 2.86~11.83)について肩甲筋の筋力および抵抗(レジスタンス)は1件の研究で評価されており、その結果によるとPRTの統計学的に有意な利益が示された。その研究では生活の質に統計学的に有意な差は認められなかった。PRT群では重篤でない有害事象2件のみ報告されていたが、標準治療群ではみられなかった。 バイアスのリスクが高いと思われる1件の研究は、任意の能動運動訓練、ストレッチおよび姿勢ケアを含めた幅広い訓練技法を手術後3ヵ月間使用していた。その研究では、運動群とルーチンの術後理学療法ケアとで肩甲機能と生活の質に差を認めなかったが、これは重大な方法論的欠点のせいである可能性があった。重篤な有害事象の報告はなかった。

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