原発性ネフローゼ症候群に対するトリプテリジウム・ウィルフォルディ・フックF(伝統的な漢方薬)

原発性ネフローゼ症候群(NS)は比較的希な腎疾患である(診断数は年間で、小児で7/100,000例、また成人で3/100,000例以下)。しかし、この疾患が原因の腎障害により尿中に蛋白が消失し(蛋白尿)、血中アルブミン量の低下につながり、その結果、脂質の増加と重篤な全身性腫脹が生じることがある。原発性ネフローゼ症候群はまた、血塊(血栓塞栓症)、感染症、および急性腎障害を生じることがあるため、生命を脅かす可能性がある。原発性ネフローゼ症候群の治療では、症状の緩和、合併症の発現回避、および延命を目的とする。免疫抑制剤による治療は、原発性ネフローゼ症候群では重要である。中国では、伝統的な漢方薬であるトリプテリジウム・ウィルフォルディ・フックF(TwHF)が、蛋白尿の減少および腎機能を保持する免疫抑制剤として20年を超えて用いられている。TwHFは単独、また副腎皮質ステロイド剤、またはシクロホスファミド(CPA)といった他の免疫抑制剤との併用投与に処方される。

今回のレビューでは、原発性ネフローゼ症候群患者での免疫抑制療法としてのTwHFの使用について調査した。他の標準的には用いられない調製物と比較し有害性プロファイルが低く、有害作用が少ないことから、標準的TwHF抽出物2剤のみを対象とした。本調査では、10件のランダム化研究(原発性ネフローゼ症候群中国人患者630例)で得られたエビデンスを評価した。このうち、4件の研究(293例)では、TwHFを用いた場合に、有害事象の増加がなく完全寛解、および完全/部分寛解を達成した症例数が有意に増加したことが報告された。また、他の4件の研究(223例)でTwHFとプレドニゾンを比較した場合、完全寛解、部分寛解、完全/部分寛解に有意差は認められなかった。さらに他の2件の研究(114例)でTwHFとCPAを比較した場合でも、完全寛解、部分寛解、完全/部分寛解に有意差は認められなかった。1件の研究では、TwHFはCPAと比較した際、腎機能を有意に改善(血清クレアチニン値の減少)したことが報告された。TwHFはプレドニゾンと比較した場合では精神障害のリスクが低く、 またCPA と比較した場合では脱毛の可能性が低かった。得られたエビデンスの質は低く、10件のみの研究で630例を組み入れ、追跡期間は短く、比較研究を実施した最大研究数は4件であった。また対象とした研究の質について重大な懸念があった。原発性ネフローゼ症候群患者での寛解への相乗効果がある可能性がある。しかしTwHFについて、プレドニゾンまたはCPAと同等の有効性があるか、評価するにはエビデンスが不十分である。

著者の結論: 

TwHFは原発性ネフローゼ症候群患者の寛解に相乗的な効果を示す可能性があると考えられる。TwHFには、プレドニゾンまたはCPAと同等の有効性があるかを評価するにはエビデンスが不十分であった。より妥当な研究方法で十分に検出力を持つ研究を実施し、適切な追跡期間を設けることで、原発性ネフローゼ症候群にTwHFを用いる場合の管理の選択肢について、さらに有用な情報が得られると考えられる。TwHFは、プラセボまたは無治療に対し明確な優越性が確率された後に、汎用されている免疫抑制剤と直接比較する必要があると考えられる。

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背景: 

免疫抑制剤として用いられる伝統的な漢方薬、トリプテリジウム・ウィルフォルディ・フックF(Tripterygium wilfordii Hook F:TwHF、別名:ライコウトウ)は、中国で20年を超えて原発性ネフローゼ症候群(NS)患者に処方されている。中国の原発性ネフローゼ症候群患者はTwHFによる治療で効果が得られてきたが、その特性についてはまだ十分に解明されていない。

目的: 

原発性ネフローゼ症候群患者に対するTwHFの利益および有害性を評価すること。

検索戦略: 

本調査ではCochrane Renal Groupの特別登録簿(2012年8月)、Cochrane Register of Controlled Trials(CENTRAL、コクラン・ライブラリ 2012年第8版)、EMBASE(1966年~2012年8月)およびMEDLINE(1966年~2012年8月)を検索した。また、CBM(Chinese Biological Medical Database:1978年~2010年11月)、CNKI(Chinese National Knowledge Infrastructure:1979年~2010年11月)、VIP(ChongQing WeiPu Chinese Science and Technology Periodical Database:1989年~2010年11月)、WanFang Database(1980年~2010年11月)および論文(2010年11月6日)の参照文献一覧についても検索した。

選択基準: 

ランダム化比較試験(RCT)のみを対象とした。TwHFの標準的な調製物であるエタノールと酢酸エチル混合溶媒による抽出物およびクロロホルムとメタノール混合溶媒による抽出物の2種類を調査した。その他TwHF調製物はすべて、報告されている有害性のため、調査対象外とした。また、他の伝統的な漢方薬についても調査対象外とした。今回対象としたRCTはすべて、最低3カ月の追跡を行なった試験であった。

データ収集と分析: 

データ抽出およびバイアスのリスク評価については、2名の著者が独立して実施した。ランダム化番号の生成および割りつけのコンシールメント(隠蔽化)の詳細が存在しないか報告が不適切であった場合、実際の研究者に確認および各手順の詳細を問い合わせた。2値アウトカム(寛解および薬剤に関連した有害事象)については、リスク比(RR)および95%信頼区間(95%CI)を、また連続アウトカム(尿中蛋白排泄量、血清アルブミンおよび血清クレアチニン)については平均差(MD)をそれぞれ用いた。

主な結果: 

630例の参加者を組み入れた10件の研究を対象とした。得られたエビデンスの質は総じて十分なものではなかった。なぜなら、組入れ参加者数が少数で研究数も少なく、追跡期間が各研究とも短く、各比較カテゴリーにはそれぞれ数研究しか該当せず、研究方法でのバイアスに大きな懸念があったためである。4件の研究(参加者293例)が、TwHF調製物とTwHF調製物以外との比較対象となった。TwHFでは、完全寛解(RR:1.46、95%CI:1.18~1.80)および完全/部分寛解(RR:1.26、95%CI:1.10~1.44)が有意に増加し、最終追跡時点(12~16カ月)での有害事象プロファイルに悪化は認められなかった。4件の研究(参加者223例)では、TwHFとプレドニゾンを比較した。その結果、完全寛解、部分寛解、および完全/部分寛解には統計学的な有意差は認められなかった。2件の研究(参加者114例)では最終追跡時(3~12カ月)に、TwHFとシクロホスファミド(CPA)を比較した。その結果、完全寛解、部分寛解、および完全/部分寛解には統計学的な有意差は認められなかった。1件の研究(参加者46例)では、TwHFはCPAと比較し血清クレアチニンが有意に減少(MD:-14.00µmol/L、95%CI:-26.43~-1.57)したことを報告している。TwHFによる重篤な有害事象は認められなかった。1件の研究(参加者37例)では、TwHFはプレドニゾンと比較し精神障害のリスクが有意に低く(RR:0.11、95%CI:0.01~0.75)、また2件の研究でTwHFはCPAと比較し脱毛のリスクが有意に低かった((2件の研究、参加者114例):RR:0.11、95%CI:0.02~0.59)ことが示されたことが報告された。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.6]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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