新しい血管の成長を抑える薬(血管新生阻害薬)は上皮性卵巣がん患者に効果があるのか

知りたかったこと

新しい血管の形成(血管新生)を妨げる治療薬が、上皮性卵巣がん患者に対する治療の結果を改善するかどうかを明らかにしようとした。

卵巣がんは、世界的に女性に8番目に多いがんであり、年間死亡率は女性10万人あたり4.2人である。上皮性卵巣がんは卵巣や卵管の表層から発生するもので、卵巣がん全体の90%を占める。

上皮性卵巣がんの治療には、がん組織を取り除く手術とプラチナベースの化学療法(急速に増殖する細胞を殺す薬)がある。しかし、初期の反応が良好であっても、結局のところ、進行したがんの多くがさらに治療を必要とする。

がんが成長するためには、酸素と栄養素を供給する新しい血管が必要である。血管新生(既存の血管から新しい血管を作ること)を阻害すると、がんの成長が遅くなり、成長が止まることもある。血管新生を阻害するには、モノクローナル抗体(単一の標的を認識する抗体)によって血管新生ホルモン(VEGFと呼ばれる)を阻害するか、あるいはVEGFの受容体(VEGF-R)に関連する酵素(チロシンキナーゼ)を阻害すること(チロシンキナーゼ阻害薬(TKI))によって、VEGFとVEGF-Rが結合して起こる細胞の反応を防ぐ方法がある。

本レビューで実施したこと

上皮性卵巣がんの女性を対象とした関連する全研究を収集し、分析した。各研究では、血管新生阻害薬単独または血管新生阻害薬と従来の化学療法、または異なる生物学的製剤との併用療法が、プラセボ(偽薬)、無治療、または異なる生物学的製剤による治療と比較された。本レビューでは、このような薬剤が、上皮性卵巣がん患者の治療後の生存期間(全生存期間:OS)を改善したかどうか、がんの再増殖を遅らせたかどうか(無増悪生存期間:PFS)、どのような害(有害事象)があったのか、生活の質(QOL)に影響を与えたかどうかを明らかにしようとした。上皮性卵巣がんが二度目以降の化学療法にどの程度反応するかは、以前の化学療法と最後のプラチナ製剤による化学療法からどの程度の期間が経っているかによるため、新規に診断された上皮性卵巣がんか再発した上皮性卵巣がんか、またプラチナ製剤に対する感受性別に結果を分析した。

わかったこと

14,836人の女性を対象とした50件の研究を特定した。

主な結果

新たに診断された上皮性卵巣がん

モノクローナル抗体治療(ベバシズマブまたはアバスチンと呼ばれる)を化学療法と併用し、そのあと維持療法として継続しても、上皮性卵巣がんと初めて診断された後の生存率にはほとんど影響しない可能性が高い。進行を遅らせるというエビデンスは非常に不確かである。治療によって重篤な副作用が増加し、QOLもわずかに低下する。

チロシンキナーゼ阻害薬を化学療法と併用し、そのあと維持療法として継続しても、上皮性卵巣がんと初めて診断された後の生存率にはほとんど影響しない可能性が高いが、疾患の進行を遅らせる可能性がある。治療により、QOLはわずかに低下し、重篤な副作用のリスクはやや上昇し、高血圧症の治療が必要になるリスクは大きく上昇する。

再発上皮性卵巣がん(プラチナ製剤感受性:最後のプラチナ製剤による化学療法後、1年以上経過して再発したもの)

プラチナ製剤感受性の再発上皮性卵巣がん患者に対して、ベバシズマブを化学療法と併用し、そのあと維持療法として継続しても、生存率にはほとんど影響しないが、進行を遅らせる可能性がある。QOLにはほとんど影響しないと思われるが、治療により重篤な副作用のリスクはわずかに増加する。全研究で、治療によって高血圧の割合が増加することがわかった。

このプラチナ製剤感受性の患者群では、チロシンキナーゼ阻害薬を化学療法と併用し、そのあと維持療法として継続しても、再発後の生存率にはほとんど影響しないが、進行を遅らせる可能性が高く、QOLにはほとんど影響しない可能性がある。重篤な高血圧は治療により多くみられたが、治療による重篤な副作用全体に対する影響を推定することはできなかった。

再発上皮性卵巣がん(プラチナ製剤抵抗性:最後のプラチナ製剤による化学療法後、6カ月以内に再発したもの)

プラチナ製剤抵抗性の再発上皮性卵巣がん患者では、ベバシズマブによる治療が生存期間を延長し、おそらく進行の大幅な遅延をもたらした。しかし、治療により高血圧に著しいリスクが生じ、消化管穿孔のリスクが高まる可能性がある。その他の重篤な副作用については、QOLと同じく、報告に一貫性がなかった。

この患者群では、化学療法にチロシンキナーゼ阻害薬を追加しても、生存率にはおそらく影響しないが、進行を遅らせる可能性があり、QOLにはほとんど有意義な差がない。一方、チロシンキナーゼ阻害薬は重篤な副作用のリスクをわずかに増加させる。消化管穿孔率や高血圧に対する効果は非常に不確かであるが、その主な理由は、研究が小規模であることや、研究ごとに使用されたチロシンキナーゼ阻害薬の種類が異なることによる。

エビデンスの限界

この分野は急速に進歩しており、さらに多くの研究や長期間の追跡調査が進むことによってエビデンスが変わる可能性がある。

本レビューの更新状況

このレビューは2011年のレビューを更新したもので、2022年9月までの最新版である。

要点

新たに診断された上皮性卵巣がん

新たに上皮性卵巣がんと診断された患者に対するベバシズマブとチロシンキナーゼ阻害薬による血管新生阻害治療の効果は不明である。

この治療は、患者の生存期間やがんの再増殖(進行)にはほとんど影響を及ぼさず、QOLの低下や重篤な副作用の増加をもたらす可能性がある。

プラチナ感受性上皮性卵巣がん

ベバシズマブとチロシンキナーゼ阻害薬はおそらく進行を遅らせるが、患者の生存期間を改善するかどうかはわからない。

プラチナ抵抗性上皮性卵巣がん

ベバシズマブは患者の生存期間を改善する可能性が高く、おそらく進行に大幅な遅延をもたらす。

チロシンキナーゼ阻害薬はおそらくがんの進行を遅らせるが、患者の生存期間を改善するかどうかはわからない。

血管新生阻害治療には一定の役割があると思われるが、血管新生阻害薬による維持治療に伴う治療負担の増加や経済的コストについては慎重に検討する必要がある。

訳注: 

《実施組織》内藤未帆、ギボンズ京子 翻訳[2023.09.21]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007930.pub3》

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