糖尿病性神経障害の予防および治療を目的とした強化血糖コントロール

糖尿病とは、血糖の値が高い状態と定義される。糖尿病には2つの型がある。1型糖尿病では、体内で十分なインスリンを産生できない。2型糖尿病では、体のインスリン反応が低下している。糖尿病の型にかかわらず、多数の人で身体機能を障害する神経障害が発現する。神経障害とは、しびれ感、ピリピリ感、疼痛、脱力を呈する状態で通常は足から始まり下肢の上方に進行する。足が最初に罹患し下肢、手指と続くことから、分布は靴下・手袋型と表現される。糖尿病で最も多い治療は、神経障害などの多数の合併症を予防するための血糖値コントロールである。本レビューでは、積極的に血糖値を下げようとする方法が神経障害の発現を予防するかどうかを検討している17件のランダム化研究を同定した。これらの研究のうち7件は1型糖尿病の人を、8件は2型糖尿病の人を、2件は両型を対象として実施されていた。しかし、主要アウトカムを検討していたのは、参加者1,228名の1型糖尿病での2件の研究および参加者6,669名の2型糖尿病での4件の研究のみであった。1型糖尿病では、標準的治療に比べ強化療法の方が神経障害の予防に有意な効果を示した。2型糖尿病では、強化療法の方が臨床的神経障害の症状・徴候の予防に利益を示したが、本レビューで選択した主要な方法による測定では統計学的に有意ではなかった。しかし、どちらの型の糖尿病でも、電気的神経伝導検査および振動検知閾値を測定する特殊な機械により測定した神経損傷量に対し有意な正の効果が示された。全体として、どちらの型の糖尿病においても強化血糖療法により神経障害の発現が遅延するというエビデンスが示された。現在、有効性が証明されている他の治療法はない。しかし、どちらの型の糖尿病においても発現し他の問題の中でも脳損傷に至る可能性がある、危険な低血糖値リスクが有意に上昇することと有益な効果とのバランスを取る必要がある。

著者の結論: 

高品質のエビデンスによると、強化血糖コントロールは1型糖尿病において臨床的神経障害の発現を有意に予防し神経伝導および振動閾値異常を有意に減少させた。2型糖尿病において、強化血糖コントロールは臨床的神経障害の罹患率を低下させたが、正式には統計学的に有意ではなかった(P = 0.06)。しかし、強化血糖コントロールにより、神経伝導および振動閾値異常が有意に減少した。強化血糖コントロールにより重度の低血糖エピソードのリスクが有意に上昇したことは重要であり、リスク/利益比を評価する場合は考慮する必要がある。

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背景: 

糖尿病には2つの種類がある。1型糖尿病は若年者が罹患しインスリン注射による治療が必要である。2型糖尿病は年長者が罹患し、通常は食事および経口薬により治療できる。糖尿病診断時の患者の10%は糖尿病性神経障害に罹患しており、10年後には40%~50%の患者が罹患する。強化血糖コントロールは、この身体機能を障害する病態の予防について最もよく研究されている介入であるが、エビデンスを示すシステマティック・レビューは実施されていない。

目的: 

1型および2型糖尿病患者での遠位対称性多発神経障害の予防における強化血糖コントロールのエビデンスを検討すること。

検索戦略: 

糖尿病における強化血糖コントロールのランダム化比較試験について、Cochrane Neuromuscular Disease Group Specialized Register(2012年1月30日)、CENTRAL(2012年第1号)、MEDLINE(1966年~2012年1月)、EMBASE(1980年~2012年1月)を検索した。

選択基準: 

1年以上の介入後の神経障害のアウトカムを調査している、強化血糖コントロールを検討したすべてのランダム化比較試験を選択した。主要アウトカム指標は、臨床的スケールにより定義した臨床的神経障害の年間発現であった。副次アウトカムは、運動神経伝導速度および定量的振動覚検査であった。

データ収集と分析: 

選択に関するデータベース検索で同定されたすべての標題および抄録を2名のレビューアが別々に検討した。標準的フォームを用いて、すべての選択した研究から2名のレビューアがデータを抽出した。3人目のレビューアが不一致を解決した。年リスク差(RD)により臨床的神経障害の発症を解析し、年平均差により伝導速度および定量速度を解析した。

主な結果: 

本レビューでは、強化血糖コントロールが神経障害発現を予防するか検討した17件のランダム化研究を同定した。これらの研究のうち7件は1型糖尿病の人を、8件は2型糖尿病の人を、2件は両型を対象として実施されていた。1型糖尿病の計1,228名の参加者を対象に主要アウトカム(臨床的神経障害の発生率)を報告している2件の研究のメタアナリシスでは、強化血糖コントロール群において臨床的神経障害発現リスクの有意な低下を示し、年RDは-1.84%[95%信頼区間(CI)-1.11~-2.56]であった。2型糖尿病の参加者6,669名を対象に主要アウトカムを報告している4件の研究の同様の解析では、臨床的神経障害発現の年RDは-0.58%(95%CI 0.01~-1.17)であった。ほとんどの副次アウトカムは、どちらの集団においても強化治療を有意に支持する結果であった。しかし、どちらの型の糖尿病でも、低血糖事象を含む重度の有害事象が有意に増加した。

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