成人と小児の喘息発作において吸入ステロイドを増量した場合と通常の用量で続けた場合の治療効果の比較

要点

喘息発作が起きた当初に一回量が通常の用量よりも多いステロイド薬吸入器を使用するという行動計画に従っても、おそらく患者は(増量しない場合と)同様に症状が悪化して経口ステロイド薬が必要になる可能性がある。他の有益性と有害性については確かではないが、誰の吸入量が増やされたか参加者にも治験実施者にもわからないように「盲検化された吸入器」を使ったどの研究においても、軽度または中等度喘息患者の吸入量を増やすことによる有益性は示されなかった。なお、盲検化された吸入器が用いられなかったために本レビューの対象から除外された最近の研究で、コントロール不良の喘息につき、より好ましい結果が得られたことは留意すべきである。

喘息とは?

喘息は、よくある慢性の肺の病気で、咳、息切れ、喘鳴などを引き起こす。喘息患者はしばしば、増悪または「発作」と呼ばれる短期的な症状悪化に見舞われるが、これは中等度のこともあれば、生命を脅かすこともある。

これが喘息患者にとって重要なのはなぜか

喘息患者にとって喘息発作は怖いもので、しばしば自宅や病院での応急手当てが必要となる。どうしたら初期的な徴候が出た時点で喘息の発作をよりよく抑えられるかを知ることは、経口ステロイド薬や病院での救急治療が必要となる事態を避けるために重要である。

吸入ステロイド薬は、喘息の発作を起きにくくするために毎日吸入する一般的な治療薬である。喘息患者には症状が悪化した場合にどう対処するべきかの手引きとなる行動計画書が渡されるが、その中で、症状を抑え込むために吸入ステロイドの用量を短期的に増量するよう推奨されることがある。

調べたかったこと

喘息症状が悪化しているときに、ステロイド吸入量を増やすと、さらなる治療の必要性が減るか、またそれによる悪影響があるかどうかを調べた。

本レビューで行ったこと

毎日吸入ステロイドを使用する喘息患者を対象に、症状が悪化した場合、盲検化された吸入器を使用するよう無作為に割り付けたあらゆる研究を探した。盲検化された吸入器には、吸入ステロイドの通常用量を増量したものと、同じ用量のものがあった。関心があったのは、増量した用量を吸入した群では、喘息発作の治まらない患者が減ったかどうかである。喘息発作は2つの区分、すなわち、経口ステロイド薬治療が必要となるもの、そして救急外来または病院での緊急治療が必要となるものに分類した。また、吸入ステロイドを増量した結果、通常用量の場合と比べて有害事象が増えたかどうかも調べた。

広範な検索を行い、2人の研究者が別々に研究を評価して、これらを対象に含めるべきか判断した。各研究、参加者、治療計画に関する情報を記録した。結果を集計し、それぞれの研究の結果がどの程度信頼できるか評価するためには、最新の方法を用いた。それぞれの複合的な結果をどれだけ信頼できるかに応じて、質が「高い」、「中程度」、「低い」、「非常に低い」に等級付けした。

わかったこと

軽度または中等度の喘息患者に関する9件のランダム化比較試験(参加者を2つ以上の治療群のいずれかに無作為に割り付けて行う研究)をレビューの対象に含めた。5件の研究は成人、4件は小児を対象とするものだった。

用量を増量したステロイド吸入器を与えられた患者は、プラセボ(疑似治療薬)または通常用量の吸入器を与えられた患者とほぼ同様の確率で症状が悪化し、経口ステロイド薬による治療が必要となった。この主たる結果の信頼性は中程度だが、用量を増やすと別の種類の予定外の対応(医者にかかる、病院に行くなど)または発作の持続時間の短縮ために有益性があるかを判断するのは、ずっと困難だった。有害事象に関する結果は吸入ステロイドの用量を変えないほうが無難であることを示唆しているが、この結果の信頼度は非常に低い。

エビデンスの限界

研究開始時点で患者が吸入していた吸入ステロイドの用量、治療群の用量がどれだけ増量されたか、患者はいつ、どのように盲検化された吸入器を使い始めるように指示されたか、また他のどの薬剤の併用が許可されたかは、研究によってまちまちである。実際に盲検化された吸入器を使う必要があったのは、参加者の約半数のみで、これらの患者を調べてみると、少しは有益性があるように見えたが、研究結果はまちまちで、バイアスのリスクが高かったため、信頼度は非常に低い。

また、研究期間中に病院に行ったり、救急外来で受診する必要が生じた患者は多くなかったことから、短期的に吸入ステロイドを増量する価値があるか判断するのは難しく、エビデンスの信頼度は低いか非常に低い。これら研究には、有害性について一貫した報告がなく、複合的な結果は非常に不確かである。

本レビューの更新状況

本レビューの内容は2021年12月20日現在のもので、1998年から2018年の間に発表された研究を対象としている。

訳注: 

《実施組織》橋本早苗 翻訳、小林絵里子 監訳[2022.12.05]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007524.pub5》

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