手術を受ける糖尿病患者の周術期血糖管理

糖尿病患者は一般集団に比し、術後合併症のリスクが増加する。糖尿病は、術後合併症のよく知られたリスク因子であり、入院の長期化、保険医療資源の使用増大及び死亡増加の原因となる。最も重大な合併症の一つは、周術期の感染リスク増大である。しかし、糖尿病患者の術リスク低減には集中血糖管理(血糖管理)が従来の血糖管理より良いか否かは依然として不明である。 周術期の血糖値管理を検討している12件のランダム化比較試験を同定した。周術期とは、患者の手術前後の期間で、病棟入院、麻酔、手術及び回復に関連し、術前、術中及び術後を含む。周術期の集中的血糖管理にランダム割付けされた糖尿病参加者694名及び従来の又は通常の血糖管理にランダム割付けされた糖尿病参加者709名の糖尿病患者が解析対象とされた。試験はアフリカを除く全大陸で実施された。平均介入期間は、数時間から90日間までにわたった。参加者の平均年齢は64歳であった。 周術期に血糖値が低くても、集中的血糖管理では、感染合併症、原因を問わない死亡、心血管系合併症、腎不全及び集中治療室(ICU)/病院滞在期間などの術後関連アウトカムのリスクが有意に低下した。データの事後解析であったため、集中的血糖管理により低血糖のエピソードが増大するというエビデンスがあるが、さらなる試験で確認する必要がある。1件の試験で、集中的血糖管理群の参加者12/37名(32%)及び通常の血糖管理群の参加者13/44名(30%)の健康関連QOLを評価したが、重要な差は見いだせなかった。介入の費用効果を検討した試験はなかった。本レビューの結果に基づき、糖尿病患者の術中の血糖管理に最善のアプローチは明らかではない。今後の試験では、インスリン投与レジメン、患者及び医療システム関連のアウトカム及びアウトカム測定の時点を全体的に及び均一に定めるべきである。

著者の結論: 

対象となった試験では、糖尿病患者に対し従来の血糖管理より集中的な周術期血糖管理を主眼としたところ、アウトカムの大半に有意差を認めなかった。但し、事後解析により、集中的な血糖管理は、低血糖のエピソードを経験する患者数増加と関連することが示唆された。ほぼ正常な血糖を目標とする集中的血糖管理のプロトコルは、外科的処置を受ける糖尿病患者を対象としているが、現在のところ十分な科学的基盤による裏付けがされていない。今後の試験では、インスリン投与レジメン、患者及び医療システム関連のアウトカム及びアウトカム測定の時点を全体的に及び均一に定めるべきである。

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背景: 

糖尿病患者は、術後合併症のリスクが増加する。ランダム化比較試験及びメタアナリシスのデータにより、外科的手技を受ける高血糖患者(糖尿病あり及びなし)におけるほぼ正常な血糖を目標とする集中的血糖管理から利益の可能性が示されている。但し、手術を受ける糖尿病患者ではこの疑問に関するエビデンスは限られている。

目的: 

手術を受ける糖尿病患者の周術期血糖管理の効果を評価する。

検索戦略: 

コクラン・ライブラリ、MEDLINE、EMBASE、LILACS、CINAHL及びISIS(全て2012年2月まで)の検索から試験を入手した。

選択基準: 

周術期血糖管理の各目的を前もって定めたランダム化比較試験を組み入れた(集中治療と従来の治療又は標準治療)。

データ収集と分析: 

レビューア2名が別々にデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。メタアナリシス又は記述法を用いて試験を要約した。

主な結果: 

12件の試験が、集中的管理を受けた糖尿病参加者694名及び従来の血糖管理を受けた糖尿病参加者709名をランダム割付けしていた。介入期間は、外科的処置時間のみから90日間までであった。患者数は13~421名で、平均年齢は64歳であった。集中的血糖管理と従来の血糖管理を比較したところ、所定の主要アウトカムについて下記結果が得られた。すなわち、検出力が低いか不明あるいは、感染合併症の消耗バイアスを伴う試験に限定した解析により、リスク比(RR)0.46が示された[95%信頼区間(CI)0.18~1.18)、P = 0.11、参加者627名、8件の試験、エビデンスの質は中等度(grading of recommendations assessment, development and evaluation -(GRADE)]。原因を問わない死亡の評価により、RR 1.19(95%CI 0.89~1.59)、P = 0.24、参加者1,365名、11件の試験、質の高いエビデンス(GRADE)が示された。 事後解析に基づけば、長期アウトカム指標を分析すると集中的血糖管理により低血糖のエピソードのリスクが増大するという仮説が立てられる[RR 6.92、95%CI 2.04~23.41、P = 0.002、参加者724名、3件の試験、質の低いエビデンス(GRADE)]。所定の副次アウトカムの解析により下記所見が得られた。2種の治療と比較した場合の心血管系事象のRR 1.03(95%CI 0.21~5.13)、P = 0.97、参加者682名、6件の試験、中等度の質のエビデンス(GRADE)]で、腎不全も集中血糖管理及び通常の血糖管理との間で有意差を示さなかった〔RR 0.61、95%CI 0.34~1.08)、P = 0.09、参加者434名、2件の試験、中等度の質のエビデンス(GRADE)]。大幅な説明不能な異質性があるため、入院及び集中治療室(ICU)の滞在期間についてメタアナリシスは実施しなかった。集中血糖管理と通常の血糖管理との間の平均差は、ICU滞在期間が-1.7日~2.1日に対し、入院期間は-8~3.7日であった[中等度の質のエビデンス(GRADE)]。1件の試験では、介入群参加者12/37名(32.4%)及び対照群参加者13/44名(29.5%) の健康関連QOLを評価したが、短期用12項目健康調査(SF-12)で測定した身体健康スコアに重要な差を認めなかった[低い質のエビデンス(GRADE)]。費用の点で介入の効果を検討した試験はなかった。

訳注: 

監  訳: 相原 守夫,2013.1.30

実施組織: 厚生労働省委託事業によりMindsが実施した。

ご注意 : この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、Minds事務局までご連絡ください。Mindsでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、編集作業に伴うタイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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