分娩後出血予防のためのカルベトシン

低~中所得国では、分娩後出血は母体死亡および病気の主要原因である。高所得国では、分娩後出血は少ないものの、いまだ出産後女性での主要な出血性疾患リスクの一部をなす。出産時の失血を減少するために一般的に用いられる分娩第3期の積極的管理は、母体への子宮収縮薬の投与、早期の臍帯結紮、胎盤娩出のための臍帯牽引からなる。様々な薬剤が使用されているが、一般的には筋肉内注射のオキシトシンまたは筋肉内注射のシンメトリンのいずれかが投与される。カルベトシンは、オキシトシン作用薬の一つである。オキシトシン作用薬は、オキシトシン作用と類似の作用の薬剤の一群をさし、オキシトシンは出産時の失血を減少するのに役立つ自然に分泌されるホルモンである。本レビューでは2,635名の女性を対象とした11件のランダム化比較試験(RCT)を選択した。当該試験では、経腟または帝王切開による分娩後に投与されたオキシトシンまたはシンメトリンのいずれかとカルベトシンを比較していた。筋肉内投与のカルベトシンとオキシトシンとの比較では、大出血リスクに差はなかったが、カルベトシン投与女性の方が帝王切開後の子宮収縮を促す他の薬剤の必要性が低かった。カルベトシンとシントメトリンとの比較では、経腟分娩後、シントメトリン投与女性に比べて、カルベトシン投与女性の方が失血量が少なく、悪心や嘔吐などの副作用の発現が少なかった。分娩後30分および60分での高血圧罹患率も、シントメトリン投与女性に比べてカルベトシン投与女性の方が有意に低かった。11件の研究のうち5件は製薬会社により援助されていたことが知られている。

著者の結論: 

帝王切開を受ける女性では、オキシトシンに比べてカルベトシンにより治療的子宮収縮薬の必要性が統計学的に有意に減少したが、分娩後出血の発生率に差はなかった。経腟分娩女性でのPPH予防において、カルベトシンはシントメトリンに比べて失血量が少なく、有害作用も有意に少なかった。子宮収縮薬としてカルベトシンの費用対効果を解析するため、さらなる研究が必要である。

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背景: 

分娩後出血(PPH)は、世界で母体の死亡率と罹病率に対する主要な寄与因子の一つである。分娩第3期の積極的管理はPPH予防に有効性が高いことが証明されている。シントメトリンはオキシトシンより有効であるが、副作用も多い。長期作用型オキシトシン作用薬であるカルベトシンは、PPHの予防に有望な薬剤である。

目的: 

オキシトシン作用薬の使用がPPH予防に既存の子宮収縮薬と同程度の有効性があるか検討し、オキシトシン作用薬の最適な投与経路と至適用量を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Pregnancy and Childbirth Group's Trials Register(2011年3月1日)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)(コクラン・ライブラリ2011年第4号の1)、MEDLINE(1966~2011年3月1日)およびEMBASE(1974~2011年3月1日)を検索した。論文の文献をチェックし、著者および製薬会社と連絡を取った。

選択基準: 

PPH予防について、オキシトシン作用薬(カルベトシン)を他の子宮収縮薬、プラセボまたは無治療と比較しているランダム化比較試験(RCT)

データ収集と分析: 

2名のレビューアが選択について試験を別々に評価し、バイアスのリスクを評価してデータを抽出した。

主な結果: 

本レビューに11件の研究(女性2,635名)を採択した。6件の試験はカルベトシンをオキシトシンと比較していた。そのうち4件は帝王切開を受けた女性を対象とし、1件は経腟分娩後の女性を対象とし、1件は分娩様式の明確な記述がなかった。カルベトシンはどの試験でも100 μgで静注投与されていたが、オキシトシンは様々な用量で静注投与されていた。4件の試験は経腟分娩の女性を対象に、筋注のカルベトシンと筋注のシントメトリンを比較していた。そのうち3件の試験はPPHリスク因子のない女性を対象としていたが、1件はPPHリスク因子のある女性を対象としていた。1件の試験は静注のカルベトシンをプラセボと比較していた。カルベトシンの使用により、帝王切開を受けた女性においてオキシトシンに比べて治療的子宮収縮薬の必要性が有意に減少した[リスク比(RR)0.62、95%信頼区間(CI)0.44~0.88;4試験、女性1,173名]が、経腟分娩女性については減少しなかった。オキシトシンに比べて、カルベトシンは帝王切開(RR 0.54、95%CI 0.37~0.79、2試験、女性739名)と経腟分娩(RR 0.70、95%CI 0.51~0.94、1試験、女性160名)のどちらについてもその後の子宮底マッサージの必要性の減少に関連があった。あらゆるPPHのリスク(500 mL超の失血)、または重度のPPHのリスク(1000 mL超の失血)という点で、カルベトシンとオキシトシンに統計学的に有意差はなかった。カルベトシンとシントメトリンとの比較により、シントメトリンに比べてカルベトシン投与女性の方が平均失血量が少なかった[平均差(MD)-48.84 mL、95%CI -94.82~-2.85、4試験、女性1,030名]。治療的子宮収縮薬の必要性という点で統計学的に有意差はなかったが、悪心および嘔吐などの有害作用リスクは、カルベトシン群で有意に少なかった:悪心(RR 0.24、95%CI 0.15~0.40、4試験、女性1,030名)、嘔吐(RR 0.21、95%CI 0.11~0.39、4試験、女性1,030名)。シントメトリン投与女性に比べてカルベトシン投与女性の方が、分娩後高血圧の罹患率が有意に低かった。カルベトシンの費用対効果は抄録として発表された1件の研究が検討しているが、データは限定的であった。

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