癌予防に対するセレン

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レビューの論点

セレンが癌の予防に役立つ可能性を示唆するエビデンスを調査した。本レビューはこの主題に関する初回コクラン・レビュー(Dennert 2011)の更新である。

背景

セレンは、作物、畜産物、水に自然に存在する元素である。少量のセレンは、ヒトの適切な栄養素として必要である。1960年代以降、セレン含有量が多い食事を摂る人や体内組織のセレン濃度が高い人では癌の発症率が低いことを、多くの研究が報告した。複数の基礎研究でも、セレンが癌細胞の増殖を阻害する可能性があることを示唆した。これにより、 セレンサプリメントの摂取が癌を予防する可能性について関心や主張が広まった。その後数十年にわたり、セレン濃度の高い人と低い人を対象に癌の発症率を比較するため、より多くの研究が行われた。また、参加者をセレンサプリメントまたはプラセボを摂取する群にランダムに割り付け、追跡調査を行って癌の発症率を決定する複数の試験も実施された。特に関心が集まったのは、セレンが前立腺癌、皮膚癌、あるいはその他の特定のタイプの癌を予防することができるかについてであった。

研究の特性

本レビューでは、セレン濃度の高い成人と低い成人を経時的に追跡調査し、癌を発症するかどうかを確定した55件の研究と、成人をセレンサプリメントまたはプラセボを摂取する群にランダムに割り付けた8件の試験を選択した。本エビデンスは2013年2月現在のものである。

主な結果

セレン濃度が高い人ほど癌の罹患率が低いことを示唆する限定的なエビデンスを見出した。しかし、これらの研究から、癌リスクが低い理由はセレンにあったと結論づけることはできない。セレン濃度が高いことと、より健康的な食事やライフスタイルなど、癌リスクを低下させるその他の要因が関連する可能性があるからである。また、セレンは生物活性が異なるさまざまな化学形態で販売されており、これらの研究ではどの化学形態を測定していたのかについて同定していなかった。また、癌(前立腺癌など)を発症する可能性のある人々の体内組織のセレン濃度についても、調べていなかった。

セレンサプリメントの摂取が癌を予防する可能性について評価した複数のRCTでは、方法論的な質がかなり異なっており、同等に信頼性のあるものではない。複数の研究では、セレンサプリメントを摂取した人では肝臓癌のリスクが低下したと報告したが、これらの研究では、ランダム化の過程や参加者のフォローアップに関して信頼できる詳細な報告が不十分であった。うまく実施され信頼できると判断した最近の試験では、セレンが全般的な癌リスクを低下させたり、前立腺癌などの特定の癌リスクを低下させたりする効果は示されていない。その一方、セレンが非黒色腫皮膚癌や2型糖尿病のリスクを増加させる可能性を示唆する複数の試験もあり、セレン補充の安全性について懸念を示している。

総じて、セレンの補充が癌を予防することを示唆する説得力のあるエビデンスはない。しかし、癌の発症におけるこの半金属の役割を十分に理解するためには、さらなる研究が必要である。遺伝的背景や栄養状態が異なる人ではセレンがどのように異なる作用を示唆する可能性があるのかについてや、さまざまなセレン化合物の異なる生物活性については、大部分が不明である。

著者の結論: 

セレンの暴露とある種の癌のリスクは逆相関することが複数の観察研究で見出されたが、因果関係を示すエビデンスがなく、これらの結果は慎重に解釈する必要がある。これらの研究には、セレンの暴露とさまざまな化学形態のセレンの暴露に関する評価、異質性、交絡バイアスやその他のバイアスに関する問題など多くの限界がある。逆相関、無相関、直接的な関係などの矛盾する結果が、複数の癌タイプで報告されている。

セレンの補充が癌リスクに与える影響を評価したRCTでは矛盾した結果が出ているが、バイアスのリスクが低いごく最近の複数の研究では、癌リスクに対する有益な効果はみられなかった。また、前立腺癌のリスクについても同様で、セレンのベースラインの状況が影響することを示すエビデンスはほとんどなかった。むしろ、複数の試験では、セレンの暴露に関する有害性を示している。今のところ、ヒトにおいてセレンの補充が癌を予防することを示唆する説得力のあるエビデンスはない。

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背景: 

本レビューは、癌の予防に対するセレンに関する初回コクラン・レビュー(Dennert 2011)の更新である。

セレンは栄養と有害性の2つの特性を有する半金属である。高用量のセレンの暴露や補充が、複数のタイプの癌を予防することが示唆されている。

目的: 

本レビューでは以下の2つの研究課題に関するエビデンスがあるかを検討した。

1.ヒトにおけるセレンの暴露と癌リスクに病因の関係はあるのか? 2.ヒトでは癌の予防に対するセレン補充の有効性はあるのか?

検索方法: 

以下の電子検索を行った。Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL、2013年1号)、MEDLINE(Ovid、1966年~2013年2月第1週)、EMBASE(1980年~2013年第6週)、CancerLit(2004年2月)、およびCCMed(2011年2月)。現在ではMEDLINEにCancerLitの索引を含むため、2004年以降のCancerLitのデータベースについては検索しなかった。

選択基準: 

前向き観察研究(サブコホート対照研究およびコホート内症例対照研究などのコホート研究)、および健康な成人参加者(18歳以上)を対象としたランダム化比較試験(RCT)を選択した。

データ収集と分析: 

観察研究について、5件以上の研究で特異的なアウトカムを得られた場合は、ランダム効果メタアナリシスを実施した。RCTについて、2件以上の研究が利用できた場合は、ランダム効果メタアナリシスを実施した。観察研究のバイアスのリスクについて、コホート研究および症例対照研究に関するNewcastle-Ottawa Quality Assessment Scaleを編集したフォームを用いて評価した。RCTのバイアスのリスクについて、Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions に記載された基準を用いて評価した。

主な結果: 

1,100,000例を超える参加者を対象とした55件の前向き観察研究、および合計44,743例を対象とした8件のRCTを選択した。観察研究では、高用量のセレンの暴露に伴い、癌の罹患率(要約オッズ比(OR)0.69、95%信頼区間(CI) 0.53 ~0.91、N = 8)、および癌の死亡率(OR 0.60、95%CI 0.39~0.93、N = 6)が低下することを見出した。一方の性に特定したサブグループ解析では、男女で異なる影響を示す明確なエビデンスはなかったが(P値0.47)、癌の罹患率は男性(OR 0.66, 95% CI 0.42~1.05、N = 6)が女性(OR 0.90, 95% CI 0.45~1.77, N = 2)よりも低かった。部位特異的な癌のリスクがもっとも顕著に低下したのは、胃、膀胱、および前立腺の癌であった。しかし、研究のデザイン、質、および異質性により要約統計量の解釈が複雑になるため、これらの所見には限界がある。遺伝的要因がセレンと癌リスクの関係を変える可能性があることを示した研究もあり、さらなる研究に値する仮説である。

RCTでは、セレンの補充があらゆる癌のリスク(リスク比(RR) 0.90、95% CI 0.70~1.17、2件の研究、N = 4765)や、癌に関連する死亡率(RR 0.81、95% CI 0.49~1.32、2件の研究、N = 18,698)を低下させるとする明確なエビデンスはなかった。本知見は、バイアスのリスクが低い研究に限定して解析した場合に確認された。前立腺癌に対する効果は不明確で(RR 0.90、95% CI 0.71~1.14、4件の研究、N = 19,110)、バイアスのリスクが低い試験に限定して解析した場合、本介入は効果を示さなかった(RR 1.02、95%CI 0.90~1.14、3件の研究、N = 18,183)。非黒色腫皮膚癌のリスクは増加した(RR 1.44、95%CI 0.95~1.17、3件の研究、N = 1900)。栄養による癌予防試験(Nutritional Prevention of Cancer Trial : NPCT)、およびセレンとビタミンEによる癌予防試験(Selenium and Vitamin E Cancer Trial : SELECT)の2件の試験結果でも、セレンの補充により2型糖尿病、脱毛症、および皮膚炎のリスクが増加する可能性について懸念を示した。NPCT試験による早期の仮説では、ベースラインの血中セレン濃度がもっとも低い人々では、セレンの取り込みが増加することによって、癌リスクを低下させる可能性があり、特に前立腺癌でその可能性があるとしていたが、その後の試験では立証されなかった。RCTの参加者は男性が圧倒的多数(94%)であったため、性差について体系的に評価することはできなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.31]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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