ビタミンB12の有無にかかわらず、葉酸が任意抽出された認知症のある高齢者や認知症のない高齢者の認知機能を改善することを示すエビデンスはない。長期補充は、ホモシステイン値が高い健常高齢者の認知機能に有効な可能性がある。

経済先進国では、葉酸欠乏症は最も多いビタミン不足の1つである。複数の報告では、葉酸欠乏症の高齢者でさまざまな精神疾患の有病率が高いことを示唆している。葉酸の栄養補助食品(自然に存在する葉酸の人工化学的アナログ)が、加齢や認知症に伴う認知低下のリスクがある人の認知機能を改善するのか、ホモシステイン代謝や他の機序が作用するのかについて関心が集まっている。8件の試験が選択基準を満たした。母集団、葉酸の用量、アウトカム指標が異なるため、試験データを統合できなかった。2件の試験では葉酸とビタミンB12を併用した。一般集団からホモシステイン値が高い高齢者を募集した長期試験の解析では、認知に関する複数の指標でプラセボを上回る葉酸の有意な利益が示された。1件の予備研究では、1mg/日の葉酸によりアルツハイマー病がある人のコリンエステラーゼ阻害薬に対する行動反応が有意に改善した。

著者の結論: 

実施された小規模な研究では、ビタミンB12の有無にかかわらず、葉酸が任意抽出された健常高齢者や認知障害の高齢者の認知機能に有益な効果をもたらすことを示す一貫したエビデンスはない。1件の予備研究では、葉酸によりアルツハイマー病がある人のコリンエステラーゼ阻害薬に対する反応が改善した。長期使用により、ホモシステイン値が高い健常高齢者の認知機能が改善するとみられた。この重要な点についてはさらなる研究が必要である。

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背景: 

葉酸欠乏症は、先天性の神経管閉鎖障害や巨赤芽球性貧血を引き起こすことがある。葉酸の低値は、食事からの摂取不足や吸収率が低いことによる場合があり、代謝利用の低下を招く。

B12欠乏症では葉酸欠乏症と同様の貧血を起こすことがあるため、葉酸の補充によりB12欠乏症の診断が遅れるリスクがあり、不可逆的な神経障害を引き起こすことがある。このため、葉酸補充にはビタミンB12を同時投与することが時々ある。

葉酸値が低いほど血中アミノ酸のホモシステイン値が高く、動脈疾患、認知症、アルツハイマー病のリスクと関連する。したがって、栄養補助食品が高齢者の認知機能を改善するのかについて関心が集まっている。

しかし、ビタミンB12と併用した場合の葉酸の明白な利益については、ビタミンB12単独の効果と区別する必要がある。したがって、ビタミンB12と認知機能に関するコクラン・レビューを別に発表する。

目的: 

健常高齢者や認知症患者において、認知障害の予防や進行の遅延に対する、葉酸補充の効果およびビタミンB12の上乗せの有無について効果を調べること。

検索戦略: 

検索用語として葉酸、ビタミンB9、ロイコボリン、メチルテトラヒドロ葉酸、ビタミンB12、コバラミン、シアノコバラミンを用いて、Cochrane Dementia and Cognitive Improvement Group's Specialized Registerを2007年10月10日に検索し、試験を同定した。このRegisterには、主要な医療データベースや多くの継続中の試験データベースの文献リストがある。さらに、健常高齢者に対し葉酸に上乗せするビタミンB12の有無を調べた試験がその後追加されていないか、MEDLINE、EMBASE、CINAHL、PsychINFO、およびLILACSを検索した(2003年~2007年)。

選択基準: 

健常高齢者やあらゆる種類の認知症または認知障害患者を対象に、葉酸補充と上乗せするビタミンB12の有無について、プラセボと比較したあらゆる二重盲検プラセボ対照ランダム化試験。

データ収集と分析: 

レビューアはそれぞれ選択基準を適用し、研究の質を評価した。1名のレビューアがデータを抽出して解析した。介入とプラセボの比較には、重み付け平均差、標準化平均差またはオッズ比を推定した。

主な結果: 

8件のランダム化比較試験が本レビューの選択基準を満たした。4件の試験が健常高齢者を登録し、4件が軽度から中等度の認知障害患者、葉酸欠乏症と診断された認知症患者、または葉酸欠乏症のない認知症患者を募集した。サンプルの選択、アウトカム、試験期間、用量の異質性により、データを統合できなかった。2件は葉酸とビタミンB12の併用について調べた。

ビタミンB12の有無にかかわらず、任意抽出された健常高齢者の認知機能や気分に対する葉酸の利益を示す十分なエビデンスはない。しかし、ホモシステイン値が高い健常高齢者を登録した1件の試験では、3年間にわたる800 mcg/日の葉酸補充が、以下について有意な利益をもたらした。全般的な機能:WMD 0.05、95% CI 0.004 ~ 0.096、P = 0.033。記憶の保存: WMD 0.14、95% CI 0.04 ~ 0.24、P = 0.006。情報処理速度:WMD 0.09、95% CI 0.02 ~ 0.16、P = 0.016。

4件の試験では認知障害がある人を対象とした。アルツハイマー病の人を登録した1件の予備試験では、コリンエステラーゼ阻害薬に対する全般的な反応が、1mg/日の葉酸で有意に改善した(オッズ比 4.06、95% CI 1.22 ~ 13.53、P = 0.02)。また、手段的日常生活動作能力のスコアと、Nurse's Observation Scale for Geriatric Patientsの社会的行動の下位尺度が有意に改善した(WMD 4.01、95% CI 0.50 ~ 7.52、P = 0.02)。認知障害がある人を対象とした他の試験では、ビタミンB12の有無にかかわらず、認知機能の測定における葉酸の利益はみられなかった。

葉酸とビタミンB12の併用は、血清ホモシステイン濃度の低下に有効であった(WMD -5.90、95% CI -8.43 ~ -3.37、P < 0.00001)。葉酸の忍容性は良好で、有害作用は報告されなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.3]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
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