過敏性腸症候群の治療における膨張性薬剤、抗けいれん剤および抗うつ剤

このレビューでは、過敏性腸症候群(IBS)患者に対する薬物療法の有効性を評価する。膨張性薬剤(繊維サプリメント)、抗けいれん剤(平滑筋弛緩薬)または抗うつ剤(うつ病の治療に用いられる薬剤で痛みの感覚も変化させる)を対象としており、アウトカム指標に腹痛の改善、総合的評価(IBSの症状の全体的な軽減)の改善または症状スコアの改善が含まれる研究を対象とした。膨張性薬剤はIBSの治療に有効ではないことが明らかになった。シメトロピウム/ジサイクロミン、ペパーミントエッセンシャルオイル、ピナベリウムおよびトリメブチンなどの抗けいれん剤がIBSの治療に有効であるというエビデンス(証拠)が存在する。抗うつ剤はIBSの治療に有効である。このレビューでは、これらの薬物の副作用は評価しなかった。医師は薬物療法の限界を認識し、IBS治療薬を処方する前にこれらの限界について患者と話し合うべきである。

著者の結論: 

膨張性薬剤がIBSの治療に有効であるというエビデンスは存在しない。抗けいれん剤がIBSの治療に有効であるというエビデンスが存在する。効果が認められた各サブグループは、シメトロピウム/ジサイクロミン、ペパーミントエッセンシャルオイル、ピナベリウムおよびトリメブチンであった。抗うつ剤がIBSの治療に有効であるという優れたエビデンスが存在する。SSRIおよびTCAのサブグループ解析結果は明確であり、これらの薬剤の有効性は個々の患者によって異なる可能性がある。今後の研究では、綿密な方法論および妥当なアウトカム指標を用いるべきである。

アブストラクト全文を読む
背景: 

過敏性腸症候群(IBS)は発生率の高い慢性消化器疾患である。IBSに対する薬物療法の役割は限定的であり、主に症状のコントロールに焦点がおかれている。

目的: 

本システマティック・レビューの目的は、過敏性腸症候群の治療に対する膨張性薬剤、抗けいれん剤および抗うつ剤の有効性を評価すること。

検索戦略: 

コンピューターを用いて、1966〜2009年のMEDLINE、EMBASE、コクラン・ライブラリ、CINAHLおよびPsychInfoの構造化検索を行った。2011年4月の検索更新時に10件の研究を同定し、本改訂版レビューの組み入れ候補とした。

選択基準: 

13歳以上の過敏性腸症候群患者を対象に、膨張性薬剤、抗けいれん剤または抗うつ剤をプラセボと比較したランダム化比較試験(RCT)を組み入れ候補とした。フルペーパーとして発表された研究のみを対象とした。言語による研究の制限は設けなかった。主要アウトカムに腹痛の改善、総合的評価の改善または症状スコアの改善が含まれている研究を対象とした。

データ収集と分析: 

2名の著者が独立して選出した研究からデータを抽出した。リスク比(RR)および標準化平均差(SMD)を95%信頼区間とともに算出した。種々の膨張性薬剤、抗けいれん剤または抗うつ剤に対するサブグループ解析を含む実践分析の証明を行った。次に、十分な割り付けのコンシールメント(隠蔵化)がなされている研究のみ、主成分分析の証明を行った。

主な結果: 

本レビューでは、計56件の研究(参加者3725例)を対象とした。内訳は、膨張性薬剤12件(参加者621例)、抗けいれん剤29件(参加者2333例)および抗うつ剤15件(参加者922例)であった。大部分の項目についてバイアスのリスクは低かった。しかし、対象試験の多くがランダム化および割り付けのコンシールメント(隠蔵化)に用いた方法を記載していなかったため、選択バイアスは不明である。膨張性薬剤は、プラセボと比較して腹痛(研究数4件、参加者186例、SMD 0.03; 95%CI -0.34〜0.40; P = 0.87)、総合的評価(研究数11件、参加者565例、RR 1.10; 95%CI 0.91〜1.33; P = 0.32)および症状スコア(研究数3件、参加者126例、SMD -0.00; 95%CI -0.43〜0.43; P = 1.00)の改善に対する有益な効果が認められなかった。不溶性繊維および可溶性繊維のサブグループ解析でも、統計学的に有意な有益性が認められないことが示された。十分な割り付けのコンシールメント(隠蔵化)がなされた研究の個別分析でも、同様の結果が得られた。抗けいれん剤は、プラセボと比較して腹痛(抗けいれん剤群の58%が改善したのに対し、プラセボ群では46%が改善、研究数13件、参加者1392例、RR 1.32; 95%CI 1.12〜1.55; P < 0.001; 治療必要数(NNT)= 7)、総合的評価(抗けいれん剤群の57%が改善したのに対し、プラセボ群では39%が改善、研究数22件、参加者1983例、RR 1.49; 95%CI 1.25〜1.77; P < 0.0001; NNT = 5)および症状スコア(抗けいれん剤群の37%が改善したのに対し、プラセボ群では22%が改善、研究数4件、参加者586例、RR 1.86; 95%CI 1.26〜2.76; P < 0.01; NNT = 3)の改善に対して有益な効果が認められた。種々の抗けいれん剤に対するサブグループ解析では、シメトロピウム/ジサイクロミン、ペパーミントエッセンシャルオイル、ピナベリウムおよびトリメブチンの有益性に統計学的な有意性が認められた。十分な割り付けのコンシールメント(隠蔵化)がなされた研究の個別分析では、腹痛の改善に対する有益性に有意性が認められた。抗うつ剤は、プラセボと比較して腹痛(抗うつ剤群の54%が改善したのに対し、プラセボ群では37%が改善、研究数8件、参加者517例、RR 1.49; 95%CI 1.05〜2.12; P = 0.03; NNT = 5)、総合的評価(抗うつ剤群の59%が改善したのに対し、プラセボ群では39%が改善、研究数11件、参加者750例、RR 1.57; 95%CI 1.23〜2.00; P < 0.001; NNT = 4)および症状スコア(抗うつ剤群の53%が改善したのに対し、プラセボ群では26%が改善、研究数3件、参加者159例、RR 1.99; 95%CI 1.32〜2.99; P = 0.001; NNT = 4)の改善に有益な効果が認められた。サブグループ解析では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による総合的評価の改善ならびに三環系抗うつ剤(TCA)による腹痛および症状スコアの改善に対する有益性に統計学的有意性が認められた。十分な割り付けのコンシールメント(隠蔵化)がなされた研究の個別分析では、症状スコアおよび総合的評価の改善に対する有益性に有意性が認められた。本レビューでは、有害事象をアウトカムとして評価しなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.29]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

Tools
Information