筋萎縮性側索硬化症治療に対する抗酸化剤

運動ニューロン疾患としても知られる筋萎縮性側索硬化症は、漸進的に障害が進行し最終的に死に至る疾患であり、治療薬が存在しない。ビタミンC、ビタミンE、セレギリン、セレニウム、メチオニンアセチルシステイン、およびコエンザイムQ10は、治療法となる可能性が示唆されており、筋萎縮性側索硬化症患者の治療を行う医師は、一般に、上記の一部の使用を薦めている。本アップデートレビューでは、参加者計1015例を対象とした10試験を同定した。適切にデザインされたランダム化比較試験に基づくエビデンスとして、このような薬物治療の使用を支持するエビデンスは得られなかった。本レビューで特定した抗酸化剤の試験は、概して、方法論的な質が不良であり、統計的検出力を備えていなかった。しかし、抗酸化剤には重篤な副作用がみられず、概ね忍容性は高い。

著者の結論: 

筋萎縮性側索硬化症患者の治療において、抗酸化剤は個別にみた場合、あるいは総じてみた場合、有効性のエビデンスが不十分である。1試験では軽度のプラス効果が報告されていたが、我々の解析では対象としなかった。今後、抗酸化剤の試験を実施する場合は、症例数やアウトカム指標、試験期間には十分留意する必要がある。ビタミンCやビタミンEは忍容性および安全性が高く、比較的安価なことから、医師や筋萎縮性側索硬化症患者が継続的に使用している。臨床試験では、臨床使用の裏付けとなる実質的なエビデンスは認められなかったものの、明確な禁忌は存在しない。

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背景: 

フリーラジカルの蓄積と酸化ストレスは、筋萎縮性側索硬化症(または運動ニューロン疾患)の進行の一因と考えられている。これまでに、さまざまな抗酸化剤が検討されてきた。本稿はアップデート版レビューである。

目的: 

筋委縮性側索硬化症患者の治療における抗酸化剤の効果を検討する

検索戦略: 

Cochrane Neuromuscular Disease Group Specialized Register (2010年5月11日)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL、コクランライブラリ2010年第2号)、MEDLINE(1966年1月~2010年4月)およびEMBASE(1980年1月~2010年5月)を検索した。

選択基準: 

筋委縮性側索硬化症に対する抗酸化療法のランダム化比較試験または準ランダム化比較試験

データ収集と分析: 

著者がそれぞれ選択基準を適用し、試験の質を評価した。2名の著者がデータ抽出を行った。

主な結果: 

検索の結果、評価対象として25試験を同定したが、組入れ基準に合致したのは10試験のみであった。10試験の参加者は、計1015例であった。上記試験は、概して、参加者数が少なく試験期間も短期にとどまり、試験のデザインは不良で検出力不足であった。我々が事前に定めた主要アウトカム指標(治療後12カ月時の生存)を用いていたのは、2試験のみであった。しかし、メタアナリシス実施が可能となる十分なデータを、4試験から得ることができた。個々の試験では、1日2回500 mgのビタミンE、1日5回1 gのビタミンE、1日1回50 mg/kgのアセチルシステイン皮下注入、L-メチオニン2gとビタミンE 400 IUおよびセレニウム(Alsemet)0.03 gの3剤併用を1日3回、または1800 mg/日および2700 mg/日のコエンザイムQ10について、有意な効果は認められなかった。抗酸化剤すべてを併合し検討したメタアナリシスでは、主要アウトカム指標について有意な効果は認められなかった。副次的アウトカム指標のいずれについても、有意な差は示されなかった。抗酸化剤は重篤な副作用がみられず、忍容性は概ね良好であった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.27]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
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