アルツハイマー病患者へのチアミンの有効性についてエビデンスは不十分

前臨床試験と実験室で行った研究ではアセチルコリンの遊離と分解に対するチアミンの効果が立証されている。注意力や記憶力などの一部の知的機能は、アセチルコチンを遊離するニューロンの影響を受ける。アルツハイマー病ではコリン作動性の機能が障害される。そのため、アルツハイマー病ではチアミンが有益となる可能性があると仮説が立てられてきている。アルツハイマー病患者の脳では、チアミン依存性酵素の生化学的異常が認められている。ランダム化比較対照試験を含む3件の試験は、参加者が総計50人に満たず、そのため試験結果の詳細が不十分なことからデータの組み合わせができなかった。したがって、レビューではアルツハイマー病患者に対するチアミンの有効性についてのエビデンスは認められなかった。

著者の結論: 

本レビューから何らかの結論を導くことはできない。各試験に登録された患者数は50名未満であり、報告された結果は不十分なものである。

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背景: 

ウェルニッケ・コルサコフ症候群では、ビタミンB1(チアミン)欠乏が重要な役割を担う。栄養を主としてアルコールに依存している長期のアルコール中毒者に生じる脳損傷の一種である。通常、急性症候群(ウェルニッケ脳症)では回復が可能である。重大な健忘症候群(コルサコフ精神病)への進展は、高用量チアミンを適時注入投与することによって回避が可能である。チアミンは、アルツハイマー病において有益な効果をもたらす可能性があること示唆されている。

目的: 

本システマティック・レビューの目的は、アルツハイマー病患者におけるチアミンの有効性について評価することである。

検索戦略: 

thiamin*、vitamin-B1、B1、「Vitmain B1」の検索語を用い、2003年2月12日にSpecialized Register of the Cochrane Dementia and Cognitive Improvement Groupの最終更新版を検索することによって試験を抽出した。本登録は定期的に更新されており、すべての主要な医学データベース(MEDLINE、EMBASE、CINAHL、PsycINFO)および多くの試験データベースから得られた記録が含まれている。

また、各レビューアが既報レビューおよび進行中の会議に関する書誌を検索し、追加データを入手するため製薬会社および研究者と接触した。

選択基準: 

アルツハイマー型痴呆患者にチアミンが2日以上投与され、プラセボと比較されたすべての交絡のない二重盲検ランダム化試験。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが独立してデータを抽出し、オッズ比(95%CI)または平均差(95%CI)を推定した。

主な結果: 

3件の試験を登録した。2つのクロスオーバー試験では、第Ⅰ相の結果が報告されていなかった。メタアナリシス用として結果をプールすることはできなかった。Nolan 1991では、試験完了者における3、6、9、12カ月目のMMSEから見て、チアミンがプラセボと比較して効果的であるとのエビデンスはないと示す結果が報告されている。Meador 1993aでは、ベースラインと比較した3カ月目のADAS-Cog測定値から悪化が認められた患者は、チアミンの8名中3名に対してプラセボの9名中6名であると示されているが、統計的有意差はなかった。

Blass 1988およびNolan 1991では試験中に有意な副作用は認められなかったと報告されている一方、Meador 1993aでは副作用について述べられていない。 Blass 1998では16名中5名、Nolan 1991では15名中5名が試験を終了していないと示されているが、いずれの試験でもこのような患者が属していた群について述べられていない。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.26]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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