認知症治療におけるレシチンの疑わしい効果

レシチンは食事からの主なコリン供給源であり、理論的には、認知症や同様の障害がある人(アルツハイマー病など)の脳機能を改善する可能性がある物質である。本レビューでは、アルツハイマー病や他のタイプの認知症患者に対し、レシチンが利益をもたらすことを示すエビデンスはみられなかった。しかし、1件の小規模な研究では主観的記憶障害がある人でレシチンによる著しい利益が認められたが、比較する同様の研究はない。

著者の結論: 

ランダム化試験のエビデンスは、認知症患者の治療におけるレシチンの使用を支持していない。中等度の効果を除外できないが、これまでの小規模試験の結果では大規模ランダム化試験の重要性を示唆していない。

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背景: 

アルツハイマー病患者では、脳内でコリンをアセチルコリンに変換する酵素が欠損していることがわかっている。レシチンは食事からの主なコリン供給源であり、補充することで認知症の進行を抑制する可能性がある。

目的: 

認知症や認知障害の治療におけるレシチンの有効性を評価すること

検索戦略: 

「レシチン」および「ホスファチジルコリン」という用語について、The Cochrane Dementia and Cognitive Improvement Group's Specialized Registerを2004年5月6日に検索した。この登録(register)にはあらゆる主要なデータベースの記録や多くの試験データベースの記録があり、定期的に更新されている。文献リストや関連性のある書籍についても調べた。

選択基準: 

アルツハイマー型認知症、血管性認知症、血管性とアルツハイマー病の混合、未分類または他の認知症、もしくは認知症の基準を満たしていない未分類の認知障害の患者を対象とし、1日以上の投与期間でレシチンとプラセボを比較したあらゆる交絡因子のないランダム化試験を適格とした。

データ収集と分析: 

2名のレビューアがそれぞれデータを抽出し、照合した。メタアナリシスは、ほぼ同等の患者を対象とした複数の試験で比較可能なアウトカムデータがある場合に実施した。結果に異質性があるとみられた場合に、ランダム効果解析を実施した。規模や治療期間が異なるため、アウトカム指標について標準化平均差を用いた。マンテル-ヘンツェル法またはダーサイモニアン・レアード法を用いて、二値データのオッズ比をプールした。

主な結果: 

アルツハイマー病(265例)、パーキンソン認知症(21例)、および主観的記憶障害(90例)の患者を対象とした12件のランダム化試験を特定した。アルツハイマー病やパーキンソン認知症について、レシチンの明確な臨床的利益を報告した試験はなかった。メタアナリシスに使えるデータを有する試験はわずかであった。統計学的に有意な唯一の結果は、有害事象についてプラセボに有利なものであり、1件の試験に基づいた、誤った結果とみられる。主観的記憶障害の患者を対象とした1件の試験では、レシチンに有利な著しい結果が得られた。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.21]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
CD001015

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